《2000.04》
緊急手術! ・・・は単なる爪切り?

 ええっと、我が家の父ちゃんは長いこと『巻き爪』に悩んでいるのです。もっとも、巻き爪という言葉は、昨年珍しくテレビを見ていた時に、たまたま症状を紹介していたのを「おお、これ、自分もそうだ!」と初めて知ったわけで、それを元に インターネットで検索して症状や対策などを検討したわけですね。
もともと左足爪が変形していた
 巻き爪というのは圧迫やその他何らかの理由により爪が弧を描いてしまい、指に食い込んで痛い思いをするわけなのですが、どこかのサイトでは「開いた『C』の字のようになる」と書いてあったけど、父ちゃんのはもはや『つ』の字状態。で、角が指に食い込まないように斜めに切り落とすと、実は切り残しが出てトゲになり、それが却って指に刺さってしまうそうなのです。だからむしろ爪を伸ばし気味にしたほうがいいなどと書いてあったりするのですが、伸ばしていたら却って先が丸まってきて、今度は指先が窮屈になってくる。それに靴下に穴が開いて母ちゃんが厭な顔をする・・・そのうちちゃんと医者に行って治療をしなければならないかなぁと思いながら風呂の中で爪の先を広げる日々だったのです。

 4月のある日、右足の親指の爪が欠けてしまいました。どうも昨年罹患した水虫の影響なのかも知れないのですが、爪がもろくなっていたのです。それがちょうど深爪をして、端が残ってトゲになった状態と同じになってしまったようです。数日後、果たして疼痛を覚えました。
「あ、指に食い込んだな!」
 足を引きずり加減に歩いているうちにだんだん痛くなってきて、その翌日はマトモに歩けなくなってしまいました。まいったなぁ、これは医者に行かねばならんなぁ、でも、まだ平日だし仕事は忙しいし・・・などと考えていると、更に翌日、指が腫れ上がって靴が履けなくなってしまった。仕方ないからガーゼ代わりに古いハンカチを巻き、右足はサンダルを履いて仕事に行ったのですが、その日はずっと脂汗。でも、明日は第4土曜日で仕事は休みだ。

 巻き爪には形成外科だそうだけど、形成外科の看板を揚げた医者の少ないこと。電話帳で市内に一軒だけ見つけて、幸い土曜日も診療しているので行こうとしたら、その前に颯の歯医者の付き添い。昼食を食べて、目的の医者の午後の診療は何時から始まるか判らないけど、とにかく早く見てもらおうと出かけたらやっぱり2時からで、1時間以上待つ羽目になってしまった。
 今朝ほどハンカチを取り替えるときにチラッと患部を見たけど、爪が突き刺さった脇の肉がはじけたのか、指の脇が異様に盛り上がっていて、とても描写したくない。
 で、ドクターも一目見るなり「とりあえず切るよ、いいね」と言ったけど、いいも悪いも無い、早く何とかしてくれ!
 診察台の上に横たわり、看護婦さんが足を押さえつける。日ごろ採血針ならニコニコ笑いながら「あ、こっちの方がいいんじゃないの」などと言いながら刺されるのを見ていられるけど、これはとても無理。天井向いて歯を食いしばり・・・ギャーッ!!!

こうして見ると
ちょっと角を落としただけ
 たぶん指と爪の間に麻酔の注射をしているのだろう。これがメチャメチャ痛い。思わず大声を出して足を振り払いたくなるのを、40男の理性で必死でこらえる。続いて鈍い感触・・・ハサミで爪を切っている雰囲気。あ、また針が刺さったのかなと思うような激痛。うっ、今度は爪を剥がしているらしい。なかなか剥がれずにねじるように引っ張られる感触が伝わってくる。
 しかし麻酔というのは不思議なものですね。針を刺されたときは最高に痛かったけど、治療そのものはそれほど痛くないし、治療が終わったあとも全然しびれが残らず(歯医者で奥歯を抜いたりした後はしばらく口の中がボーッとしているけど)何事も無かったかのようにクルマを運転して帰れたのにはびっくりした。

 2日後にようやく自分で患部を見る気力が戻ってきたのだけど、あの腫れ上がったというか大きくはみ出したように見えていた肉塊(といほど大きなものではないが)はきれいに退いており、半分も剥がされたのではないかと思っていた爪も、実は角のほうが切り落とされただけだということが判った。つまり数日間苦痛に苦しみ、激痛をこらえて手術に耐えたというのに、終わった痕を見れば、単に爪の角を切り落としただけ。大の男が麻酔をかけて爪をつんでもらっただけということになってしまうのです。でも、痛かったんだよ、ホントに!
 ドクターの説明では、とりあえず爪の部分だけを切って土台の部分はいじらなかったので、今後また再発するかも知れないが、その時は本格的な巻き爪治療をしようということらしい。

 ゴールデンウイークを目前にして治療や回復が長引き、歩行や入浴に支障をきたすと困るなぁと思っていたので(キャンプの予定があるもんね)、延命策というか執行猶予つきの治療は何よりでした。
 しかし爆弾を抱えているようなもので、それに左足の巻き爪も相当なものなので、本当なら暇な時に治療したほうがいいんだろうけどね。喉もと過ぎればなんとやらで、お金を払って痛い思いをするのは厭だなぁという気になってきているのですね。
 指先のマッサージか何かで徐々に治す方法があればいいと思うのですが、どなたかご存知ありませんか?


 治療が終わって、受付でお金を払うと処方箋が渡されて「薬は薬局で購入してください」

 父ちゃんがよく行く歯医者や、去年年賀状をもらって以来やたらと通う羽目になっている外科医院は受付で薬をくれるのだけど、今は『医薬分業』の病院が多いようですね。そういえば、10年くらい前にアトピーで通った皮膚科の前にも数年前に薬局ができたな。
 ところで、この「・・・の前にも」というのが気にかかるのですね。ちょっと注意して見ると、医者の向こう3軒両隣のどこかに必ずといっていいほど薬局がある。医者が2軒並んでいたりすると薬局も2軒並んでいて、いったいナンだこれは!?

 本来、医薬分業のメリットは内科皮膚科馬鹿間抜けといくつもの病院に行っても、薬局を1軒に決めておけば、それぞれの医者が処方した薬を見て「あ、これじゃダブって量が多すぎる」「これとこれとは飲み合わせが悪い」などと薬剤師がコントロールしてくれることにあると思っているのですね。それが現状では医院ごとに専属の薬局があるみたいで、医薬分業というよりは医薬分室、単に薬待ちの患者を病院の待合室から追い出しただけに過ぎないのですね。
 薬局なんて町内に1軒あればいいはずなのに・・・これでいつも連想するのがパチンコの景品交換所。かつて駅前や繁華街にパチンコやが並んでいた頃は路地裏にひっそりとあった交換所が、いまは郊外型の大型パチンコ店それぞれの駐車場にあるという風景を思い出すのです・・・もっとも、父ちゃんはパチンコが電動式になってからは、面白味が無くなってやめてしまいましたが。

 さて、父ちゃんが手術(単なる爪切りかも知れないけど、領収書には手術料の項目があった)をした病院も、目の前に大きな薬局がありました。実は父ちゃんより前に支払いを済ませていた患者さんには「この処方箋を出して薬を買ってください。薬局は病院の前にありますから」と言っていたのですが、父ちゃんに対しては何故か「病院の前にありますから」という言葉を省略したのです。きっと受付の女性は父ちゃんの日頃の思いを目の光の中に感じたのでしょう。そう、父ちゃんはここで薬を買って帰るようなヒトではないのです。

医薬分業は税金対策というウワサを聞いたこともある
 家に電話して治療が終わったことを伝え、薬局の場所を尋ねます。ここから家に戻る途中に母ちゃんや子供たちがかかっている内科医院があって、隣に薬局があるとのこと。家族ぐるみで同じ薬局を「かかりつけ」にするのは長く親身な付き合いができるかも知れない。そう考えて立ち寄ったら、なんと閉店。内科医院の診療時間が土曜の午前中までだったせいか、この店の営業時間も午後3時までだったのです。
 家から歩いて数分のところに薬局が2軒(もちろん病院も2軒)あるのを知っていたのでそちらに寄って見ると、1軒目はシャッターが下りている。もちろん隣の病院は休診中。もう1軒は・・・駐車場にクルマが停まっているのも見えるので営業しているなと安心して入ってゆくと。クルマはビルメンテ業者のもので、店内のベンチ類を外に出してワックス掛け作業中。それでもカウンターの奥に薬剤師がいたので店の外から声をかけて処方してもらえるかと尋ねると、
「えっ! それっていつの処方箋ですか?」
「つい今さっきもらったばかりです」
「!?」
 このやりとりで判りました。いちおう看板には「全国どこの病院の処方箋でも受け付けます」と掲げてはいますが、目の前の病院以外の客が来ることは想定していないのですね。病院が終わったらもう客は来ないものと決めてかかっているのです、きっと。
 駅前のS病院にかかって今その帰りだと説明し、ワックス掛けの業者さんに中継を頼んで(作業中なもので)処方箋を渡して見せたところ、
「ごめんなさい、うちに置いていない薬がある」

 ええい、他にはどこに薬局があったっけ!? 日赤病院の裏通り、ショッピングセンターに行くときに通る道にあったはずだと思い出して、そこに行って見ることにしました。もしそこが閉まっていても表通りの日赤の前にも数軒あったはずだから、あの界隈でなんとかなるだろう・・・しかし、あそこまで行くと、むしろ治療をしてもらった病院の前の薬局に行ったほうが近いような気がするのですが、こうなったら意地ですね。誰が病院指定の薬局に行くものか!
 と早く家に帰って薬飲んで寝ていれば済むものを、薬局たずねて幾千里、目指す薬局は営業中で差し出した処方箋を快く受け付けてくれました。
 でも、「初めてですね。じゃぁ、これに住所氏名を記入してください」と差し出したカルテの処方記録欄の一番上の枠には、あらかじめこの薬局の前にある皮膚科医院のゴム印が押されていて、やっぱりここも特定の医者に寄生しているのかな(後で気づいたのだけど、表通りに数軒ある薬局の一軒は、この薬局の別の支店だった・・・ここから直線距離で100メートルほどしか離れていないのに)。
 ところがやっぱり、
「ごめんなさい、うちに置いていない薬がある」

 しかし、この薬局の気分のいいところは、別の店から取り寄せてくるからしばらく待てるかと尋ねてくれたこと。処方されたのはたぶん化膿止めと痛み止めのはずだけど、医者によって指定する銘柄にクセ(もしくはリベート?)が出るだろうから、馴染みの無い病院の医者が使いたがる薬は常備していないこともあるのでしょうね。
 他の店から融通してでも揃えようとしてくれるのが気に入って、待てますよと答えたら、薬剤師同士なにやら相談して「では、夕方お届けしますので、一度お帰りください」ときた。
 医者の往診というのは子供の頃に経験があるけど、あれはたいてい「後で病院に薬を取りに来てください」だもんね。薬の出前というのは初めて。
 父ちゃんもここでぼんやり待っているよりはと家に戻ってきたのですが、ちゃんと夕方薬が届きました。たかだか800円余り、後日健康保険からもっと入るだろうけど、それでも時間単価の高い薬剤師がわざわざ配達に来てくれて「これは牛乳と相性が悪い」などと服用上の注意をキチンとしてくれるのには感激ですね。
 こういうお店は贔屓にしたくなるのですが、まぁ、そうそう医者の世話になるのもごめんなので、馴染みの店にしたいようなしたくないような、ちょっと複雑な気分です。