《2000.08-10》
夏の終わりのカブトムシ

 夏の終わりに、我が家はカブトムシを飼っていました。

 事の起こりは、とある昆虫標本キット。父ちゃんが会員登録している調査会社からモニター募集のメールがきたのが始まりでした。応募の条件に「小学生の子供がいる人」「この夏、カブトムシかクワガタを飼っているか飼う予定がある人」というのがあって、前者はともかく後の条件には当てはまらなかったのだけど、応募するだけでもポイントが付くからと無責任に応募してしまい、そのあとすっかり忘れていたけど8月の後半になってひょっこり当選してしまい、現物が送られてきたのでした。
 送られてきたのは、おそらく来年あたり売り出そうとしている新発想の標本キットで、詳しい内容は書いちゃマズイのだろうけど、つまり、甲虫類を腐敗乾燥虫食いから守ろうという保存方法なのですね。で、モニターに任命されたものだから慌てて勤め先でカブトムシを飼っている人(何人か心当たりがあった)に「死んだら頂戴」と声をかけたところ、「なにもわざわざ死骸を貰うことないでしょ。生きてるのをあげるよ」とつがいで持って来てくれた人がいたのです。
 うまい具合に、ちょうど我が家では納涼祭やホームセンターの客寄せでもらったのを3年ばかり次々と飼っていた金魚が、みんな死に絶えて水槽が空になっていたのですね。だもんでそれに入れて飼ってみることにしました。

 インターネットで検索して飼い方を調べ、カブトムシを貰った帰り道にホームセンターに寄って必要なオガクズや昆虫ゼリーなんかを買って、水槽にセットしました。ここで父ちゃんはふと気が付いたけど、自分が子供の頃って、こんなに大騒ぎして飼わなかったよね。虫取りカゴにそのまま入れておいたり、羊羹か最中が入っていたようなボール紙の箱に入れて、餌はスイカの皮とかそんなものでしたね。ホントはこれではすぐに死んでしまうらしいのですが、一週間もすれば飽きちゃうのだからそれでよかったし、また次のを捕まえに行けばいいのだから、長く生かそうとか、卵を産ませようなんて考えもしなかったですね。つまり、昔は「捕まえて遊ぶ」で、今は「飼う」。目的が違うのかも知れませんね。ま、今は近所の神社ですぐに捕まえられるという環境ではないし、まして高いお金を出して買ったりしたものなら2、3日で死んだら次ってわけにもいかないし。

 しかし、「飼う」というのはつまらないのです。カブトムシは水槽の底に敷いたオガクズの中にもぐりこんだまま姿を見せない。母ちゃんによると深夜ゴソゴソを現れて、ゼリーに顔をうずめるようにモリモリと餌を食べているらしいのですが、父ちゃんも子供たちも夜は8時を過ぎたら寝てしまうので、ちっとも見られないのです。
 これじゃ全然飼っている気がしないと、ある日無理やり掘り出して子供たちに見せてやろうとしたのですが、オガクズまみれで汚らしい。昆虫の王様として光り輝く立派さを子供にも見せてやろうと思ったのに期待はずれです。カブトムシには可哀想かも知れないけど、ツノに糸を引っ掛けてクルマを牽かせるとか、なにかそうやって遊ぶほうが面白いんだけどなぁ。
 そういうわけで、ふれあいを感じられないまま、我が家のカブトムシ夫婦は達者に暮らしているようでした。ひょっとしたら、冬を越してしまうほど生きているのかなぁ(実際、越冬させた人がいるらしい)。

取り出して子供たちに見せたら
おっかなびっくりだった
 ・・・そうそう、始まりは昆虫標本キットのモニターでした。回答の締め切りは9月15日ですが、全然死ぬ気配がない。かといってわざわざ殺すには忍びない。
 仕方ないから、ギリギリまで待った末、まだ生きているので標本キットを試してはいないと前置きして、試用しなくても答えられる部分を中心に(でも、だいたいは答えられたな)設問に解答し、その後は純粋にカブトムシを飼うことになるのでした。

 しかし、アンケートを考えた人も、9月の半ばを過ぎてまだカブトムシを飼っている人がいるとは思わなかったのでしょうね。いやいや、アンケート担当者だけではありません。ホームセンターなどでもカブトムシ飼育キットが姿を消し、見かけるのはスズムシ飼育キットばかりになってきました。カブトムシ用が店頭から完全に姿を消さないうちにと、探し回って昆虫ゼリーを追加購入、大事に育ててやろうと思った矢先にオスの方が死んでしまいました・・・なんか、よくある話ですね。
 アンケート回答の期限は過ぎていたけど、だからといって使わずにとっておくこともないので例の標本作成キットを使ってみました。工程そのものは簡単ですが、手間がかかるというか・・・印象で回答した通りでした。
 その後しばらくメスの方は生きていて、このまま長生きしてくれるかと思ったのですが、ある日静かに息を引き取りました。ま、正直言って、オガクズの中にいるかいないかよく判らない状態でカブトムシのメスだけを飼っているのは面白みに欠けますもんね。こちらは標本にせずに(というより、標本キットを使い果たした)庭の片隅に埋めてあげました。残念ながら卵を産んだ気配もなかったです。

 父ちゃんや子供たちの前にほとんど姿を見せることもなく、これが子供が見て喜ぶとか、いたぶって殺すとかすればそれなりの意味はあったのでしょうが、没交渉のままだったわけで、せっかく縁あって我が家に来てくれたカブトムシには可哀相なことをしたなぁという気分です。