《2000.12》
暴走奇行・・・あ、いや、房総紀行だ(2)

 昔テレビで見た外国の風景で、海の上に延びる一本の橋、というよりは道路を走って行くクルマの映像があった。沖縄にも同様の場所があるそうだけど、見ていて気持ち良さそうだったのが強く印象に残っている。きっとアクアラインの海上部分、アクアブリッジもまたそうだろうと期待していたのだが、これがハズレ。少なくとも乗用車の運転席からはガードレールが邪魔になってよく見えない。これが観光バスか、せめて軽トラックにでも乗っていればもっと遠くが見えて感想も違ったかも知れないが、左右それぞれを見る限りでは海沿いの道を走っているような感じで、正面を見ても海の上に延びる一本の道という風には見えなかった。傍から見ていると格好良く見えるが、当事者にとっては面白くも何ともないというものの見本だ。
ガードレールの隙間から海が見える
 ともあれ、橋を渡り終えて料金所。計画段階ではここから一般道に降りようかとも思っていたけど、慣れないところをウロウロするよりはとそのまま高速を行くことにする。料金を払うと領収証と一緒に次の高速道路の通行券が渡された。
 これは後で調べて判ったのだけど、アクアラインは一般国道409号線の一部なのだそうだ。なるほど、地図を見ると東京湾を挟んで川崎と木更津に409号線が存在し、アクアラインでつながっている。ふうん、そうか、これはR254の三才山トンネルみたいなものか。だからここはここで別の料金になっていて、通行料金も一度精算する形になるのだろうと思ったのだけど、続く『アクアライン連絡道』という有料道路のネーミング、あれは何とかならんものか。わざわざ独立した名前を持たなくても館山道の支線扱いにしてやればいいと思うのだが、どうもこれまた高速道路の区分が違うらしい。前後左右に行き交うクルマの姿もなく、あぁやっぱり皆、海ほたるで引き返してこちらまでは来ないのかなと思いながら進んで館山道に合流し、木更津北インターへ向かう。進路標識に東京の文字が現れ、またしてもクルマの向きは房総に背を向けることになる。

 インターを出てすぐの信号で鴨川方面左折の標識がチラッと見えたようだったけど、一緒に信号待ちをしていた数台が皆直進したので、つられて進んでしまう。なんか変だなぁと思って地図を確認するとやっぱり間違えていた。でも、この先の高倉観音で左折すれば予定通りのR410に出られると判ってそのまま進むことにする。で、JR久留里線の小櫃駅のあたりで国道に出たのだが、全般に山あいの田舎道という雰囲気。なんだか秩父の近くを走っていると言っても通じそうだね。それにしても地名に「津」の文字がついたり、京葉工業地帯を象徴する臨海の製鉄所の写真の強烈なイメージで、君津といえば海沿いの町というイメージだったのに、何でこんなに山の中ばかりなんだ。改めて地図を良く見ると、なんと、君津市で海に面しているのは製鉄所だけで、市域のほとんどは房総半島内陸部に向かって延びているのだった。以前、南アルプス最深部の地図を見ていて東海道の代表格である静岡市の文字を見つけてたまげたことがあったが、それに匹敵するくらい驚いた。千葉県民にとっては「そんなの当然」なのかも知れないが、他県に住む人にとって見ればその程度の認識なのです。カヌーイストの野田知佑さんが住んでいた亀山湖というのもこのあたりで、そしてそこも君津市内なんだということも今回やっと判った。

鴨川オーシャンパーク裏の防波堤
(撮影:颯)
 ところで、どうして南房総へ行くのにこうして山越えをしているのかというと、これは父ちゃんのプランニングの癖で「海沿いを走るときは、左側に海が見えるようにルートを決める」のが好きなのです。日本の道路は左側通行だから、まぁ建物があるときは仕方ないけど対向車、特にバスやトラックに景色を遮られることがないので、なるべくこういう風にコース取りをするんですね。
 今回も白浜のホテルにチェックインする時刻から大まかに逆算して、鴨川あたりから海に沿って走ろうと考えたのですね。勝浦とか大原まで行っちゃうと、ドライブだけになってしまい、忙しくなってしまう。休憩抜きでは子供たちも辛いだろうし。

 さて、本当は海辺に出たところで昼食といきたかったのだけど、ちょっと無理みたい。子供たちの腹へったコールも出ているし、この山中で食事かな。もう少し先に道の駅があるはず。
 これまでの年末旅行は那須が中心だったけど、パターンとして途中どこかのテーマパークで昼食も含めて3、4時間遊んで宿に向かうというものだった。今回も鴨川シーワールドという名前が頭に浮かんだが、そこに行くまでの時間を考えるとまとまった時間が過ごせそうになく、それならいっそのことドライブ中心にして、途中の海ほたるや道の駅などでみやげもの屋を冷やかしながら細かく休憩して進む予定にしたのだった。それで調べてみると、予定のルート上には道の駅が比較的多くあって、リフレッシュするのにいいなと思っていた。
 で、さっそく最初の道の駅『きみつ』が前方に見えてき・・・両側に建物があるが、道の駅は右側のようだ。

鴨川オーシャンパーク裏の防波堤
(撮影:結衣)
 駐車場にクルマを入れ、子供たちがトイレに行っている間に施設本体に向かうと、入り口で発泡スチロールの箱を並べて魚介類を売っていたおじさんが、今日は早仕舞いで中の営業は終わりだと言う。年末年始の旅行はこういうことが起こりやすい。
 道路の向こう側にある同じような雰囲気(つまり公共施設風)な建物は営業中で、しかも食事できる施設があるようだ。というわけで行ってみると自家製パンも置いてある洒落た雰囲気のレストランで、しまった場違いなところに来たようだと焦ったが、メニューにラーメンがあったのでそれを注文することにする。ワカメスープが効いた上品な味に柔らかく煮込んだ豚の角煮が旨かった。
 別室にはこの近くのダムの資料展示室があったのだが、これも年末のせいか鍵がかかっていて入ることができなかった。どうもダム建設に伴う地元対策(観光客誘致や雇用確保)の施設というのがここの正体らしい。ウエイトレスのおネエちゃんたちも、垢抜けない雰囲気ではあったが、親切な気配りが感じられて嬉しかった。

 海沿いのドライブインで刺身定食なんぞをと考えていたのが山の中でラーメンとなってしまったわけだが、やっぱりこういうのが我が家らしいなと納得して再びスタート。いよいよ鴨川に向かって山を下る。鴨川有料道路に入ると道路脇の街頭がカモメをあしらった物になり、周囲の山並みに全然似合っていないのだが、海が近づいたという気持ちが高まってきた。
 鴨川でR128に入り、市街地を抜けたら海が見えてきた。このままもう少し進むと次の道の駅『鴨川オーシャンパーク』、海を眺めて休憩だ。

 駐車場がほとんどいっぱいだったけど、なんとか奥の方に一台分の余地を見つけて下車。24時間トイレや道路情報施設(閉まっていて入れなかった)というお決まりの設備は駐車場の脇にあるのだけど、物産館は橋を渡ってゆくスタイルになっていた。で、この物産館の形が変わっていて、扇形ピラミッド3階建て。階段状になった外壁に水が流れ落ちるという凝った作りになっている・・・らしいのだが、この時期風でしぶきが飛ぶと冷たいからだろうか、断水中。中に入ると各階ごとに出入り口というか階段の場所がまちまちで、回廊を歩いていったら行き止まり、戻って下の階に降りたら、外への出口は海の方向を向いていて、駐車場に戻るには外をぐるっと半周しなければならないなど、外観に負けず中も不思議な作りになっていた。
 みやげ物コーナーを見ても、房総に来たばかりで何が名物なのか良く判らない。標本屋みたいにいろんな貝殻を売っていて、細かい貝殻を箱詰めしたのを結衣が見つけて欲しがったが、この先まだあるだろうからと我慢させる。クルマの中やホテルの部屋でぶちまけられそうな予感がしたのだ。
螺旋のパイプで水を汲み上げる
颯は飽きずに遊んでいた
 物産館に入るのに橋を渡ると書いたが、その下は千年磯公園と称する親水広場になっていて、螺旋を利用したポンプや水鉄砲などが設置してある。ここも水の量は減らしてあるようだったが、それでもそこそこの池になっていて、飛び石などでピョンピョン遊んでいた颯はさっそく足を突っ込んで靴、靴下、ズボンと右足一式を濡らしてしまった。
 しかし、子供にとって身体を動かして遊ぶのはストレス解消になるのだろう。上機嫌でいつまでも遊ぼうとしていた。
「おい、そろそろ先に進むぞ」

 次の道の駅は・・・って、なんだか鈍行列車、各駅下車の旅という感じになってきたな『ローズマリー公園丸山町』。国道を離れて海沿いに県道を進んでいったところだ。道路右側にある標識に従って右折したが、洒落た庭園はあるものの、これが道の駅の駐車場だというようなものがよく判らない。裏手に回ってみたらパッとしない駐車場や公衆トイレみたいなものがあったけど、クルマを降りてみやげもの屋を冷やかせるような場所ではない。この公園をぶらぶら歩いても子供たちには不評だろうし、それに天気が少し曇ってきて、大人の気分も少し下降気味。そのまま先に進もうと県道に戻ることにした。そういえば我が家の後からこの駐車場に入ってきたクルマは、さっきの『オーシャンパーク』でも見かけたな。やっぱり同じようなことを思ったのか、これもさっさと出て行った。

 道路脇のちょっとしたスペースにクルマが駐車してあり、あたりでサーファーがたむろするといった情景が連なる道を進んでR410に合流。千倉の市街地で「このまま国道を行くと海沿いに走れない」ことに気づき、路地を抜けて漁港近くに出て護岸の続く道を。
 左側は当然海だが、右側には「花摘み」の看板を掲げた畑を見かけるようになる。1月の終わりごろになるとニュースなどで房総フラワーラインとか花摘みとかいう言葉を聞き、さぞかし広大な花畑があるのだろうというイメージを抱いていたのだが、一つの農家が分譲住宅一戸分くらいの観光花摘み園を経営しているのが並んでいるのが実態だったってわけだ。もちろんその背後には大きな花畑もあるのだろうけど、観光客に非効率的に荒らされるのを嫌って、出荷販売用になっているのだろう。
 と、左側に綺麗な建物が現れた。『潮風王国』という物産センターだ。新潟寺泊の魚屋街ではないが海産物が安く売っているのだろう、休憩も兼ねて寄ってみることにした。
 中に入ると中央に大きないけすがあり、それを囲むように干物や鮮魚を売っている店がある。それだけではなくアクセサリーを扱う店や お菓子やスーベニールなどのいわゆる観光土産の店もあり、なるほど、観光客が立ち寄りやすい施設になっている。
 いけすを見ると、おお、伊勢海老だ。実は秋頃のニュースで房総は伊勢海老が安く食べられるようになり、旅館や民宿などで伊勢海老料理は出てくる地元観光協会ではキャンペーンをやっている、みたいな話を聞いていて、今回の旅行も内心期待していたのですね。それに、クルマにはクーラーボックスを積んでいて、伊勢海老に限らないけど、安くて旨そうなものを見つけたら買って帰るつもりでもいたのです。
 伊勢海老の値段は100グラムで800円。と言われても、目の前で動いているこいつがどれくらいの重さなのか見当もつかない。冷やかしで聞くのもなぁ・・・それに、父ちゃんにとって伊勢海老というと、前に九州に住んでいたときに父が五島の人から貰った体長30cmあまりのものがイメージとして強烈に残っていて、ここにいるのは一回りもふた回りも小さいではないか。ザリガニとまでは言わないけど、この大きさで伊勢海老とはなぁ。懐具合が淋しいくせに言うことだけは恐れ知らずなのである。(実際には、目の前の20cmくらいのものでおよそ2,000円らしい)
 鮮魚を売っている店先では立派なイナダが6尾で2,000円と、これは刺身にしたら相当食えるな。宅配便で実家の親に送って、はらわたを抜いて冷凍してもらい、3日の日に妹一家もやってくる新年会で・・・などと考えを巡らせたが、送料はともかくとして、年末年始でゴミの収集が止まった時にごっそり生魚を送りつけたら怒られるに決まっている。
 それでもせっかく海辺に来たのだからと伊勢海老に未練のある父ちゃんは、ここにくる手前に漁協の販売所があったと引き返してみたのだが、こちらの伊勢海老はさらに値段が高く(100グラム1,000円。でも、少し大ぶりだった・・・ってことは一匹当たりはさらに高いか)、宅配便も年内の受付は締め切っていて、このあとホテルに泊まる身では何も買えなかった。

 これといったキメもなく(そのぶん余計な出費や荷物を抱え込まずに済んだが)、いかにも我が家らしい優柔不断というか行き当たりばったりのドライブの末、目指す目的地『リゾートin白浜』に着いた。この界隈の旅館やホテルが道路を挟んで海に面している中で、ここは直接海に面している。よくぞこれだけの一等地を押さえたものだ。それだけ歴史があるのだろう、建物は少々くたびれていて、案内された和室の畳はふわふわしていた。
 建物が古く、しかし昨今の不景気では改装するのも・・・という宿の中には、その分食事でサービスしてお客さんに喜んでもらおうと考えているところが増えているらしい。ここもそういう中の一軒かどうかはともかくとして、「花とグルメのホテル」を標榜しているからにはちょっと期待してるぞ。でも、年末年始は別立ての特別メニューなんだよね。これが更に良くなるのなら嬉しいんだけど。単に従業員の割増手当て分が上乗せされただけならちょっと淋しい。
 すると、夕食は部屋食になるとのこと。ホームページでは1日限定5組、しかも2,000円割増という風に書いてあったが、これも特別メニューの一部なのだろうか。あえて手間のかかることをやってくれるのは嬉しいではないか。風呂から上がって一息入れていると、係りの人が廊下の隅に置いてあった会議用座卓を2台持ってきてテーブルクロスを広げてセッティングを始めた。あらかじめ部屋にあった座卓では並べきれないのかな。ますます期待できるぞ。

 予約のときに夕食は和洋いずれかを選ぶことになっていたのだけど、まあ新鮮な魚が出るのだろうから、だったら刺身がつく和食がいいなとチョイスしておいたのだが、子供料理まで統一する必要はないとのことなので、こちらは洋食にしておいた。このほうが食べやすいだろう、嬉しい配慮だと思う。
 さてさて、お出ましになった料理は、はっきり言って「いわゆる観光旅館料理」、もちろんお約束の「伊勢海老のお造り」がつく。さっきから父ちゃんが何かにつけ「この旅館は・・・」と口にすると「ここはホテルなんだから」と母ちゃんが訂正するのだが、名前にホテルとついていても和室に浴衣でくつろいでいるのだから、やっぱり旅館である。ホテルというのは部屋の中でも靴を履いて、ベッドの上でしかゴロリと横になれないような宿のことだと思う。
 あ、いや夕食の話だった。気兼ねなしに食べられる部屋食のありがたさで、テーブルいっぱいに広げられた数々の皿の上の料理もキチンと胃袋の中に消えていった。しかし、伊勢海老というのは姿かたちが良く、もちろん味もいいのだろうが食べるところが少ない。大型のザリガニくらいのサイズで、ほんの一口。これだったら『レッドロブスター』に行ったほうがよっぽど食べでがあるような気がする。上品にお造りにして皿に載せるよりも、味噌汁にしてしまった方がお椀からはみ出して豪快に見えると思うのだが、それじゃ浜の漁師料理になって板前のプライドが許さないかな。
 子供たちの料理はハンバーグやエビフライが中心で、颯にはパエリア鍋に載ったビーフステーキもついてきた。

 夕食後、母ちゃんが頼んでいたマッサージさんがやって来て一仕事終えたのだが、もう今夜はこれで仕事がないと言う。まだそんなに遅い時間でもないのに・・・
 それなら父ちゃんも揉んでもらおうかとお願いしたのだが、揉むというよりは強烈な指圧。顔つきがプロレスの豊登かブッチャー(古い)に似ている印象だったのだが(女性でした)、まさにプロレス技の指突き攻撃やクロウ攻撃で責められたという感じだ。こりゃぁ楽になるというよりは、明日あたり筋肉痛が心配。なんでお金を払って痛い目に遭わなければならないのだろう・・・