《2001.02》
連番のゼッケン

 なんかこう、スキーをやろうって気持ちが湧いてこないんだなぁ。と思っているうちに第14回奥日光XCスキー大会の参加申し込みの締め切りである1月末が近づいてきました。でもまぁ第9回から毎年参加しているし、今年もその頃までにはスキーをやる気分になっているだろうからと、申し込んでおくことにしたのですが・・・。

 前から母ちゃんもこれには出てみたいと思っていたようで、特に昨年の大会は家族揃って出かけて、見るだけだったとは言え大会の雰囲気に触れたので、今年はますます出てみたくなったようです。
「結婚して10年だし、記念ってことでおじいちゃんたちに子供を頼んで・・・」
「ううむ、そうだな」
 父ちゃんもスイートテンとかでダイヤの指輪をねだられるよりはマシかと同意して、近所に住むおじいちゃんおばあちゃんに子供たちを預けて、夫婦でエントリーすることにしました。
「どうせ出るなら5kmよりも10km(もちろん『ハイキングの部』、決して『競技の部』ではない)が面白いよ。5kmだと人が多すぎて前後の人にぶつからないように気を遣っているうちにゴールになってしまう」
「ええ、そうなの? でも、そんなに長い距離滑れるかなぁ」
「大丈夫だよ」
 てな調子で、二人で10kmの部にエントリーしたのですけどね、10kmのコースは後半が結構派手なアップダウンがあり、慣れた人にはこれが楽しいのだけど、変化のあるコースを滑った経験が少ない母ちゃんにはちょっと不安。
「ねぇ、前の日から泊まりで出かけない? そうすれば少しは練習できるし・・・おばあちゃんたちには悪いけど」
 もともと夜明け前に出発するので前夜から子供たちを預けておくつもりだったのだけど、それなら朝から預けてしまおうか。実家に言ったら「なんだ、前の日から行くんじゃなかったのか?」と、向こうはそうするものだと思っていたらしい。「まだ暗いうちに凍った道を走るのは心配だから、前の日から行ったほうがいいよ」
 そう思っていたのなら気が楽だ。それじゃぁ朝そちらに連れて行くよと言ったら、さすがにそこまで早くから出るとは思っていなかったらしい「ええっ!」

スタート前。まだ元気
 宿はいつもの『トロールの森』。しばらく前にオーナーと電話で話した時に、今年は参加するかどうかわからないし、参加しても日帰りだと言っていたのだけど、やっぱり部屋空いてる?
 かつては当初の予定のように大会に参加するときは夜明け前に家を出て日帰りだったのだけど、『トロールの森』が開業してからは4年連続で前夜泊するようになってしまった。「開業してからは」なんて書いたけど、最初の年は「予定を一週間早めて開業させて泊まった」のだからとんでもない客なのである。この冬、『トロールの森』のホームページから我が家へのリンクが張ってあって「XCスキーのお師匠さん」みたいな紹介がされていたけど、父ちゃんは決してそんな立派な存在ではない。15、6年も前に当時まだサラリーマンだったオーナーと一緒にスキーに行って「アイスバーンでコントロールが効かず、空に舞い上がって空中半回転、頭から着地した事件」だの「強風の高原で作ったのはラーメンだったけど食べたのは冷やし中華だった事件」とか、悲惨な思い出を共有しているだけなのだ。同じリンク先でもこちらのほうがよっぽど「XCスキーのお師匠さん」だと思う。感心するようなことが書いてあるので、プリントアウトして母ちゃんに「これを読め」と渡したほどだ。

 さて、出発当日は雨。気勢は上がらないけど日光へ。天気はどうであれ、いちおう参加受付は済ませておこうと奥日光へと登ってゆくと、いろは坂は霧に包まれていたけど戦場ヶ原まで行くとそれほどひどい状況ではない。さすがにこの日はもう光徳の県営駐車場にクルマを停める余地は残っていなかったので、アストリアホテル前のロータリーにエンジンを掛けたままのクルマを残して参加受付とガラポンの抽選だけを済ませてくる。こうやって前日に受付を済ませ、当日最初からゼッケンをつけてくれば余計な参加資料などで手荷物を増やさなくても済むのですね。
 三本松にクルマを戻して霧のような小雨の中で昼食、寒いなぁ。
 身体を温めるためにも滑って行こうと支度をして母ちゃんと滑り出す。アストリアホテルまで登って行ったところで、この先どうしよう。牧場に下りて逆川沿いにと、ハイキング5kmのコースを滑るのが順当だけど、この間は初心者の颯だってそれくらい滑れて、こっちは大人だもんね。それにハイキング10kmにエントリーしているのだから、そのコースを頭に入れておいた方が当日なにかと気が楽だろうということで、更に先に進むことにする。
 うっかり水筒を持たずに来てしまったので母ちゃんにとっては辛かったかもしれないけど、いちおう明日のコースをスタート地点は違うけど完走してみた。これで少しは自信がついたかな。
 クルマまで戻ってきて、今日はこれくらいにしておこうと、山を降りて『トロールの森』へ。

 夜になって市街地の方でも雪が降り出した。実は明朝いろは坂の下で再びチェーンを巻くのは面倒なので、走りにくいのを覚悟でそのまま走ってここまで来ていたのだけど、案外正解だったかもしれない。ここは長い直線の坂道上に沿ってペンションが集まっていて、オーナーの話では週末の朝にはチェックアウトして出てくる泊り客によるスリップがらみの衝突事故が多いそうだ。
 翌朝は晴天。もちろんこういうときはよく冷え込んで路面も凍っているものだが、大会日和で気分はいい。朝食もしっかり食べて出発だ。毎年一緒に大会に参加している仲間が今年は誰も来ないところに母ちゃんと二人でエントリー、なんだか不思議な気分だ。
 三本松にクルマを置いてシャトルバスでアストリアへ。タイミングよくスイスイ行くので時間を少々もてあまし気味だったけど、いよいよスタート時刻が近づいてきた。風が強く体感温度が低いので、パーカをどうしようか最後まで迷ったが、持たずに滑り、母ちゃんがそれを使うことにする。

 さぁ、出発。今年は体力的にも今ひとつ自信がなかったので先を急がないことにして、取り敢えずは母ちゃんとペースを合わせて進むことにする。とにかく200人からの人間が同時スタートした上に、5分前に出発した5kmコース参加者の後部集団がいるので、当分の間は団子状態で滑るしかない。そのうち15kmコース参加者の先頭集団が迫ってきて、光徳入り口のバス停まで、静かな日に来ればいい雰囲気で滑れる林の中はストレスの溜まる区間になってしまう。
 だから林の中は適当にコースアウトして写真を撮ったりしながら気分転換。バス停を過ぎてから三本松までは本日の自分のペースを決めようと少しスピードを上げてみる。
 三本松から光徳へ向かう曲がり角、ここで15kmコースとは一時分かれて走者も減ってくるので、少し遅れてやってきた母ちゃんに「あとは俺、自分のペースで先に行ってるから」と声を掛けて進むことにした。

 しかし、いつも思うけど、普段父ちゃんはドアtoドアでマイカー通勤して1階のフロアで事務のお仕事、帰宅後は「風呂、メシ、寝る」の3段飛びで1時間以内に布団にもぐりこむという、運動という文字とは縁の無い生活をしている(テレビとも縁が無い)。それが奥日光に来るといきなりスキー履いて10km走ってしまうわけで、これってひょっとすると相当アブナイことではなかろうか? 普段から運動するとか、入念な準備運動するとか、何か考えた方がいいのではないかなぁと思いながら今日もいきなり走り出しているわけですね。
 三本松から光徳まではほぼ全編登り坂。途中、例の逆川に流れ込む川を横切るところは土手を下って、その勢いを維持したまま一気に対岸を登ってしまうのがいつものパターンで、今回も人の流れが途切れたタイミングを計って「それーっ・・・うぎゃっ!」
 突然右の胸が張り裂けそうに痛くなって、思わずバランスを崩す。転びはしなかったけど、勢いが死んでしまったので対岸の土手はよたよた登る羽目になり、その後アストリアまでは少しペースを落としてゆっくり進むことにする。ああ、ビックリした。

 県営駐車場までやってきて、これで前半5km終了。この後は実際には5kmも無いと思うのだけど更にキツイ登りと下りが続く。でもそれはそれで変化があって面白いし、これまで幾度となく滑って体力の配分も判っているので、楽しく滑ることができる。母ちゃんにも昨日ここを滑らせて、こらえどころや楽できるところを伝授したけど、一回きりじゃ頭に入っていないかなぁ。

ゴール直後、
傍にいた人が撮ってくれた
髭が凍っていた
 そんなわけで前半は集団に中に巻き込まれてペースを落としていたけど、滑り終えてみれば1時間30数分と、いつもの時間で滑ってくることができた。給食コーナーに行って缶ビールを確保。ここ数年用意された本数が少なくてヒヤヒヤだったけど、今年は結構あるのでホッとした。
 再びゴール地点に戻って母ちゃんを待つ・・・のだけどなかなか来ない。風が強いので立って待っているのも身体が冷えてくる。道路を横切って牧場の方まで行ってみて、光徳沼の方から登ってくる参加者を見ながらあれがそうか、いや、その後ろかと探してみたけどそれでも来ない。
 ヘンだよ。三本松のあたりまでは父ちゃんもペースを落としていたとは言え5分と離れてなかったはず。そこで一度声を掛けるために一緒になったわけで、その後コース全体の3分の2くらいのところでこれほどの時間の差がつくのだろうか。なにか事故でもあったかと心配になってくる。
 ゴール地点で風に震えながら立っている父ちゃんの隣りに一人の老人がやはり仲間の到着を待っている雰囲気で、こちらもなかなか姿が見えないようだ。つい仲間意識が芽生えて「お連れさん来ませんねぇ」と声を掛けてしまった。
 その老人の連れと、母ちゃんがほとんど一緒にゴールインしたのが、父ちゃんのゴール後から1時間近く遅れてのことだった。急坂の下りで人の多さも含めてビビってしまい、あの中に突っ込んではいかんと思って歩いて降りたりしていたので遅くなってしまったらしい。お疲れ様でした。ようやくビールで乾杯となったわけだけど、残念ながら身体が冷え切っていた父ちゃんには旨さ半減でした(風呂上りに飲むという手もあったな)。
元気復活!
 あとはカップ麺と豚汁(父ちゃんは「ぶたじる」と呼ぶが母ちゃんは「とんじる」と言う。辞書をみてもそんな読み方は無いと思うのだが)、そしてホテルの温泉大浴場というお決まりのパターン。これだけで参加費の元が取れたというやつですね。

 母ちゃんはあちこち転んで痛い思いをしたようだけど、やっぱり10kmコースは変化があって面白いと完走にご満悦。父ちゃんも来年はもう少しシーズンの早くから身体を動かしておいて15kmコースに再度チャレンジしたいと思うのですが、滑った直後だからそう思うのであって、また来シーズンもぐうたらしてて、15kmはキツイが10kmならへっちゃらだなんて言っていきなり駆け出すんでしょうな。
 とまぁこうして今年の奥日光XC大会は終わったのでした。過去5年、記念に持ち帰るゼッケンが1枚だったのが、今年は2枚になって・・・。