《2002.12》
 冬の花火 

 毎年我が家では両親と妹一家が集まってクリスマス会というか忘年会を開いています。もっとも、「集まって」と書きましたが、今年の会場は我が家ではなく両親の家でした。そこへ父ちゃんは例の地ビールを持って行き(よくこの日まで取っておいたって? いくら父ちゃんでも普通の日に2リットルは飲まないのだよ)、飲みながら「このあいだ、大胡に羊の写真を撮りに行ってねぇ」と、例の家族連れの様子も含めて話したのです。聞いていた妹が苦笑いしたのは、妹一家も『ぐりーんふらわー牧場・大胡』で年賀状用の写真を撮っていたからだったのですが、それはさておき・・・
「でね、今晩、花火大会があるんだけど、見に行かない?」

 そうなのです、ドイツ村ではクリスマス期間中に特別なイベントを用意していて、その一つとして23・24日の2日間、花火大会が催されるらしいのです。しかもクリスマス期間中の21日〜25日は入場無料。先日の冬期500円引きというのも気前がいいと思ったけど、タダというのはもっと凄いですねぇ。
 ともあれ、ウチのクルマは8人まで乗れるから、その範囲なら連れて行けるよと誘ってみたものの反応は今ひとつ、後はビールを飲んでプレゼント交換をしてと、いつものパーティになったように見えたのでしたが・・・。

 実は父ちゃん、こうみえてもビールの量を控えていた(し〜んじられない!)。家に戻って夕方には運転可能状態になっていたのですが、母ちゃんや颯までもが花火を見に行くことに乗り気ではないのですね。そうかそうか、父ちゃんだけがはしゃいでいたのか。じゃぁ花火なんてやめて家でパーティの残りの料理を食べながら飲み直そう、と思ったら結衣がぼそぼそと小さな声で「花火どうするの?」
 おや、結衣は花火行きたいのか? ここでやめたら、こいつまたウジウジと泣くな。よし、二人だけでも行くか? うん。
 てなわけで今回も二人で行くことにしました。馬鹿な親子ですねぇ。それにしてもいつから結衣は父ちゃんっ子になったんだろ。赤ん坊の頃は風呂に入れてやろうとしたら大泣きして嫌がったくせに。

地元の人にとっては
冬の風物詩になっているのかな
 寒いからあまり外で待ち時間が無いようにと6時過ぎに家を出ます。今回は真っ直ぐ現地を目指したので国定駅を過ぎたら初めて走る道、赤城山の裾野のどこも似通った景色の中、しかもその景色もハッキリしない夜道ではカーナビのお告げだけが頼りです。
 で、そのお告げに従って走っていったらちょっと迂回するルートを示してドイツ村を過ぎた先の交差点に出ました。右折しなければなりません・・・のですが、右を見るとドイツ村に向かって車のテールランプの列が、左を見ると前橋方面からやって来た車のヘッドライトの列が、どちらもほとんど動いていません。
 つまり、目の前を左右に走っている道路はドイツ村に向かう車で大渋滞を起こしていたのですね。割り込む余地が無い、いやいや、割り込めたところで先に進めない。
 思いついて、Uターンして坂を下ります。さっきこの坂を登ってくる時に後続のクルマが途中で右に入った分岐を見つけてそちらに行ってみると、案の定、ドイツ村に向かって登って行く道がありました。この道なら真正面に出られるはず。そう思って進んで行くと、道の両側に路上駐車しているクルマが増えてきました。さては駐車場が満杯で、ここにおいて行くことにしたんだなと判断して、父ちゃんもそれにならうことにしました。
 先日来た時は広い駐車場があってもお客さんが少ないなと思ったのですが、それは観光客の話。やはりクリスマスの花火大会というのは地元の人たちにとっての大きなイベントで、父ちゃんは今年初めて知ったのだけど、赤城山麓の住民にとっては恒例の行事なのかもしれません。
 吸い込まれるように人々がゲートをくぐって中に入って行きます。塔がライトアップされ、建物や歩道がイルミネーションで輝き、雰囲気が一段と素晴らしくなっています。人の流れは奥へと続いてゆき、前回結衣が遊んだアスレチックの広場が花火大会の会場になっていました。やっぱり地元の人たちは心得たもので、シートを用意してきています。割と早めに来て場所取りをしている人もいるようで、なんだかディズニーランドの夜のパレードを待っているみたいです。ディズニーランドと違うところはお弁当を用意してきている人もいるところで、こうなると夜桜見物ですね。
結衣はうれしくって
はしゃぎまくっていた
 うっかりしていました。家を出るときに母ちゃんが昼間のパーティーの残りのおにぎりなどを持たせてくれていたのですが、クルマを路上駐車することにした時、どれくらい歩くか判らない、手に持っていると邪魔になるかもしれないからと置いてきちゃったのですね。その時は帰りのクルマの中で食べればいいと思っていましたが、花火の会場に着いて安心したらお腹がすいてきました。結衣はなおさらでしょう。
 広場の中央で焼き鳥を焼いて売っていたので買い求めたら、焼いていたのは羊飼いのお兄さん、先日の羊追い込みショーをやっていた人でした。従業員だから当然といえば当然でしょうが、なんだか妙ですね。でもこれが焼き鳥ではなくシシカバブーだったら・・・やっぱり変かな。

 そうこうしているうちに花火大会が始まりました。始まる前は、わざわざこんな奥まで来なくても、広場から建物越しに見るのもいい雰囲気じゃないかと思っていたのですが、今の花火大会って、ただ花火を打ち上げるのではなく、音楽に合わせていろんな種類のものを大小さまざまなものを打ち上げる、ショーアップされたものなんですね。だからやっぱり音楽がちゃんと聞こえて全容が見られるこの広場が最適ってことなんですね。結衣ときたら、大きな花火が打ち上げられるたびに「ドッカーンッ、ドッカーンッ」と声を出して飛び上がり、おいおい、恥ずかしいぞ。
 30分ほどで冬の夜空に繰り広げられたショーは終わりです。大勢の人がいっせいに帰り始めた中を、父ちゃんたちも帰ってきました。おっと、売店を覗いてこの日も半額になっていたのでビール買うのも忘れずに。
 花火大会は翌日もあったので、もし父ちゃんや結衣の話を聞いてその気になれば2日続けてもいいかなとも思ったのですが、月曜日は会社や学校だものね。でも、来年もあれば、今度はみんなで行こうよ。

 年が明け、例のメンバーが新年会で集まった際、父ちゃんは再び地ビールを持って行き(よくこの日まで取っておいたって? 元日2日と出かけていて飲めなかったんだよ)飲みながら「あの晩、ドイツ村に花火を見に行ってねぇ」と言うと、「なんだ、本当に行ったのか」と皆あきれたのでした。