ミネルバ茶房

初めて軽井沢を訪れたのは10月の初めでした
信越線の横川の駅で電車を降り
どんより曇った空の下を
国道を歩いて軽井沢に向かったのでした

「(雨が)降ってくるぞ。乗っていけよ」

ワタクシを追い越してゆくトラックの運転手が
何人か声をかけてくれたのを辞退し
数時間をかけて峠道を登り、ようやく着いた軽井沢は
10月とは思えないほど風が冷たかったのを覚えています

駅前の食堂で昼食を食べ
その日の宿、今はもう無くなったと思う「友愛山荘」を探して
通りを歩いていると
一軒の喫茶店の、ポットをあしらった看板が目に留まりました

「ミネルバ茶房」

五木寛之の『ソフィアの秋』という小説の冒頭に
同じ名前の喫茶店があったことを思い出しました
いや、特にその小説が気に入っていたわけじゃないのですが
中学生の頃にラジオドラマか朗読かで聞いて
書店で最初のページだけを立ち読みしたことがあったのです
だからストーリーは覚えていないのですが
小説の題名と、喫茶店の名前だけは不思議とはっきり覚えていたのでした

それが今、目の前に現れた

ストーリーを忘れていたのだから主人公を気取りようもないのだけど
なんだか惹かれるものがあって中に入ってみました
その頃の自分は失意の中にあり
どうやって過ごしていたかがあまり記憶に残っていないほどでした
この日、横川から歩いて軽井沢までやってきたのも
そんな自分を元気づけるきっかけを探したかったからなのですが
ここで飲んだ熱いコーヒーと
そのあと友愛山荘で泊まり合わせた人たちとの出会いが
それまで忘れていたものを思い出させてくれたようです
これから何をすればよいのか
それが判ったような気がしたのです


今でこそ軽井沢へはひょいひょい行っているようでありますが
一番最初は、なんかこう加川良の『下宿屋』を
BGMに流したくなるような思い出があるのですよ

と、こ、ろ、で、、、
本日ふとしたことから『パスタとピッツァのお店・軽井沢・ミネルバ茶房』
というページを見てビックリしました

「建物が違う!」「場所が違う!」

ワタクシの思い出にあるミネルバ茶房は
軽井沢駅から東雲の交差点に向かって行く途中の右側だったのに...
つい数日前にもクルマの窓から見たと思ったのに
…ううむ、看板までは見なかったな

店の名は...「ら・くか」?


「ら・くか」というのは
たがみよしひさサンの漫画『軽井沢シンドローム』で
主人公たちの溜まり場になっている喫茶店です
ワタクシはこの漫画を連載終了後、単行本になってから知ったのですが
場所といい、たたずまいといい
(ワタクシが思っている)ミネルバ茶房に合致していて
懐かしく心休まる気分で見ていました

最初の記事で、店の名は...「ら・くか」? と書いたとき
歌うような調子で頭の中に響いたのですが
気が付いたら中島みゆきサンの『店の名はライフ』と語呂が合ってたんですね (^^ゞ

ミネルバ茶房はもともとワタクシの思い込んでいる場所にあって
それが引っ越したというのであれば納得できるのですが
…どなたか事情をご存知でしたらお知らせください

(附記:1月9日)