暗愚楽巴里観光
神田に「パリー通り」を探しに行った月の初め
実はワタクシ、新婚旅行で本物のパリにいたのでした
パリといえば下水道、しかも一般人でも見学できるのです
これはぜひ見て帰らねばパリに来た意味が無い!
ところが、週2回の一般開放日と、こちらの滞在期間が合わないのですね
これは口惜しい...で、もうひとつの地下名所に行ったのでした
カタコンブ...共同地下墓地と訳され
白骨が散らばっているところだという予備知識はありました
子供の頃読んだ『ベン・ハー』でのイメージが強いけど
あれはローマのカタコンブだった
地下鉄の駅を降りて、さてそれらしいところはとキョロキョロしていると
通りの向こうの一軒の建物の前に10数人の高校生らしいグループがガヤガヤしています
行ってみると果たして『CATACONBES』と書いてありました
ツレアイがこの連中を見つけなければ判らなかったような地味な建物です
2時に門が開き、建物の中で入場料を払って狭い螺旋階段を下って行きます
深いですねぇ。ぐるぐるといつまでも回りながら降りてゆくうちに
自分が今どれくらいの深さのところでどちらを向いているのかが判らなくなり
そして地下世界に着きました
なにせ深さの感覚が無くなっているから
もし天井が落ちて崩れてきたらなんて一向に考えなかったけど
あとから思い出してみれば梁も支えもない洞窟だったわけで、ちと怖い
いちおう数メートルごとに白熱灯がぶら下がっていたのです
例の高校生のグループや我々のすぐ前にいた小学生らしい子供とその父親の組は
ちゃんと懐中電灯を用意していて(あぁ、ホテルに置いてきたちゃったなぁ)
ときどき現れる分岐の奥を照らして覗き込んでいました
(どこかの鍾乳洞みたいに立ち入り禁止の柵や網で塞いであったんです)
しかし、彼らが照らした先を一緒になって覗き込んでも、奥には何もなさそうです
ホネがあるってのは記憶違いだったのかなぁと思いながらさらに歩いて行くと
石を彫って作ったような宮殿のミニチュアが現れました
少し行くとまたそこにも...これじゃなんだか胎内巡りだ
高崎の洞窟観音のほうがまだ面白いと心の中でつぶやいたら...出た! ホネだ!
白骨が散らばっているというのは確かにワタクシの記憶違いでした
歩く道の両側に、床から天井までぎっしりと骨が積まれていたのですから
おそらく大腿骨でしょう、山村の民家が家の外に薪を積み上げるような並べ方でぎっしり
それにモザイク模様のように頭蓋骨をはめ込んであります
数人分の骨が地面に散らばっているのでは生々しく見えてしまいますが
これだけ大量に、それも綺麗に積み上げられているとむしろ壮観に思えてきます
歩いても歩いても続く人骨の壁
...いったい何人分何年分集めればこれだけの数になるのだろう
(帰国してガイドブックを本屋で立ち読みしたら、およそ600万体だと)
誰がこれだけ綺麗に積み上げたのか
それよりもまずここは天然の洞窟なのか手で掘ったのか
...予備知識がないのでただただ呆れるばかりで言葉が出ませんでした
すっかり忘れていましたが
最初にあれだけ階段を下ったのだから相当登らなくては地上に戻れません
足が痙攣を起こす直前にようやっと地上にたどり着いて時計を見ると
だいたい4~50分くらい地下にいたようです
それはいいけど周囲の景色が変だぞ。出てきた場所が入っていった場所とは違ってる
それも、最初に入っていった建物の裏手というレベルではなさそうな雰囲気なのです
まぁ表通りに出れば何とかなるさとクルマが元気に走っている通りに出てみましたが
それでもまだ景色に見覚えがない
でもまぁ右か左に5分も行けば地下鉄の駅が見つかるだろう
さてどっちに行こうかと思案していたら後ろから声をかけられました
振り返ると品のいい小柄な老人が立っていて
「さてはお前たち、カタコンブから出てきて道に迷ったのだろう」と言う
なに、ワタクシにフランス語が解ったのではなく、この老人が英語で話しかけてくれ
さらにその中の「カタコンブ」「ロストウェイ」という言葉だけが解ったのですが
フランス人は自国語に誇りを持っていて、知っていても英語を使わない
という先入観があったのだけど、こんな親切な人がいるんだなぁ
...もっとも、この界隈でウロウロしている奴がいたら
カタコンブから出てきて迷子になったバカな旅行者だと
町中で承知しているのかもしれない
ともかく実はそうなんですと言って地下鉄の駅の場所を教えてもらい
右に100メートルほど行ってみたら、最初に降りた駅の隣の駅でした
つまりカタコンブは駅と駅の間、ひとつの町の下にある
...というよりはこの町全体があの骨の上に乗っているわけなんですね
ツレアイは気味悪がったが要するにフランス人はそういうことを気にしない国民である
と、こう思ったわけです。やっぱり肉食人種はタフなんだなぁ、と