ここから風が

 


Lagniappe(小室等・こむろゆい)のアルバム『ここ』を聴いて

  ミュージシャンを取り巻く「空気」が伝わってくる
  ステージにそよ風が流れているようだ
  『ここ』から風が吹いてくる

そんな感想を持ったのですが
2曲目に収められた歌が「ここから風が」

このアルバムは最初と最後の曲を
同じ詩に別の曲をつけて歌うという構成になっています
  ワタクシの持っているアルバムでは
  サイモンとガーファンクルの『Bookends』
  海援隊の『風雲篇』もそんな感じですね

だからまぁ、そういう「アルバムのテーマ」を別にすれば
初っぱな一曲目とも言える歌なのですが
これはプロデューサーである清水紹音氏の
このアルバムへの唯一のリクエスト曲なのだそうです
  ...ううむ、解ってらっしゃる
というエピソードを紹介してくれた谷川賢作氏も
「この曲の底に流れる明確な凛とした志がすばらしい」
と書いていらっしゃいます
  ...ううむ、解ってらっしゃる

この「ここから風が」という歌は
最初は小室さんのアルバム『午後のレフュージー』(1991)に収められた歌ですが
その後のベストアルバム(1992)のタイトルにもなっています

元をたどればドキュメンタリー映画『しがらきから吹いてくる風』(1990)で
テーマ曲として使われた歌で、「老人と海」のカップリングでシングル盤も出ていたのですが
その後、福祉をテーマにしたラジオ番組での対談をまとめた単行本(1995)の題名にも
やはりこの「ここから風が」が使われています

そういうわけで、この歌は
この時期の小室さんにとって関心があったというかテーマとして取り組んでいたことの
重要なキーワードではなかったかと思うのです

ということを書くとピンと来た人もいるかと思いますが
この歌のモチーフは「知的障害者」と呼ばれる人との交流から来ています
作詞者は画家であり絵本作家の田島征三さんですが
「なさけない」「全国的に」「心おさえて」といった特徴的な言葉は
ある障害者の口癖なのだそうです

  小室さんとこの信楽の施設のおじさんとのやり取りは
  『人生を肯定するもの、それが音楽』という岩波新書にも紹介されていますが
  10年位前のライブのときに、お得意の常田富士男さんの声色でやったときは
  ホントに可笑しかったのを今でも思い出します

もちろんこの歌はそういったことを歌ったものではなく
普遍的なメッセージに昇華しています
先の対談集のカバーの見返しに小室さんが書いた

  芸術的表現という地平から福祉の問題を眺めてみると、
  そこに見えてくるのは、
  福祉の問題だけにとどまるものではなく、実は、
  ぼくたちが生きている社会全体の問題であるようなのです。
  そして、さらに見えてくるのは、
  その社会の中に立っている、ぼく自身の姿なのです。

これなんですね
賢作さんが書いたように、素通りしてしまいそうなさわやかな曲の中に
凛とした志が秘められている

9月の小諸でのライブで Lagniappe が歌うのを初めて聴いたとき
ゆいちゃんの声が加わった新しい雰囲気で
またこの歌が聴けたのを嬉しく思いました
...ワタクシもこの歌が好きで
 一度小室さんにお願いして歌っていただいたことがあったのですが
 それももう5年前です

ライブ後の打ち上げのときに
「なさけない」が口癖のおじさん、伊藤喜彦さんが亡くなっているということを
小室さんに教えてもらいました
でも、彼の不思議なエネルギーに満ちた陶芸作品と、ちょっと変わった口癖は
ずっと残ってゆくんでしょうね、全国的に


さて、いよいよ年末モードです
ワタクシ、仕事が忙しくなると読書に走るという傾向があります
オンとオフのバランスをとると言うか、気持ちの切り替えを図ろうとしているのか
疲れているんだから早く寝ればいいじゃないかと思うのですが
そういうときほど深夜まで本を読みふけってしまいます

昨日は全国的に土曜日で、役所や取引先は休みのところが多いせいもあって
年末モードと言ったばかりですが比較的時間にも余裕があったので
仕事の帰りに図書館を2館回って何冊も本を借りてきました
その中にあるのが

『しがらきから吹いてくる風/西山正啓+阿奈井文彦+本橋成一』
『ふしぎのアーティストたち/田島征三』

これは夕食後すぐに読み始めました