『世間ばなし そば仕込帖』から

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最近はラーメンやうどん方面に箸先を向けることが多かったのですが
社会人になった頃は結構蕎麦好きで
評判のお店を訪ねたり本を買ったりもしていたのものです

その本たちもいつの間にか散逸してしまったのですが
それでも気に入って手放さずにいたものもあります
その中の一冊が、『世間ばなし そば仕込帖』という本です

蕎麦好きのお医者さん(宇治正美さん)が
『医療タイムス』という業界紙(?)に書いた連載コラムをもとに
加筆したり描き下ろしも交えたりしたエッセイ集で
単に聞き書きや文献紹介をしたガイド本ではなく
著者の人間味が感じられる随筆になっていることが
年月を経て読み返してみても楽しめる所以だと思うのですね
だからこの本はずっと手元にあったのです

この本(連載)を書くにあたり、豊富な文献の裏付けを取り
内容的には確かなものなのですが
それよりもなによりも、自らが無類の蕎麦好きで
子供の頃から慣れ親しんだ在所の味が基準というところが
権威ぶらない気安さを感じさせるのです
行間からは同僚や部下に「おい、一緒に食べに行こうよ」
うれしそうに声をかける姿が浮かびあがってくるのです

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世間ばなし そば仕込帖
宇治正美・著 銀河書房・刊(1986)

著者プロフィル:
長野県辰野町出身、千葉大学医学部卒業後、長野県立阿南病院長、同付属准看護婦学校長を歴任。昭和56年4月1日から長野県伊那総合健康センター所長、千葉大医学部農村医学非常勤講師、日本農村医学会評議員、日本健康増進学会理事、日本消化器集団検診学会特別会員、日本演劇教育連盟委員、他に携わり、読売医療功労賞、日本児童演劇協会賞、東日本対がん協会賞を受賞。医学博士。主な著書に、随筆集『村芝居』銀河書房、『涙ひっこめ』<看護婦青春の軌跡>合同出版、『ナースと患者の対話』アーニ出版、『医者の心患者の心』銀河書房がある。


というわけで
ずいぶん久しぶりでしたが何度目、いや十何度目かに読み返してみて
今回は著者である宇治正美さんについて詳しく知りたくなりました

今はネット時代です。自宅に居ながらにして結構な情報が得られます
おそらくワタクシが初めてこの本を手に取った時よりも
多くのことが判るのではないでしょうか...


ネットで調べた結果
やはり宇治さんはすでにお亡くなりになっていたようです
  著書からは年齢が判らなかったのですが
  出版年から想像して、それは「ありうる」と思っていました

医学者としては「アリナミンが胃のX線像に及ぼす影響について」という
研究発表をなさっているようです
  アリナミンで胃下垂が治るかもしれない
プロフィルにあった「演劇」とのかかわり...医者と演劇という不思議な組み合わせは
「医者をしながら、看護師の皆さんに演劇を教えて
 演劇を通じて言葉の使い方や、患者さんへの接し方を教えていた」(伊那毎日新聞)
ということだそうで
これまで『そば仕込帖』の著者としてしか認識していなかったのですが
地域医療に取り組んだ研究者としての人物像が見えてきました

そして、ふと目に留まったのが

... さて、この列車に筑摩書房の創業者古田晁が義弟の宇治正美(医師、随筆家)とともに乗っていた。古田は渋川驍「柴笛」の原稿を伊那の ... 反射的に床に伏せた古田の上に、ワンテンポ遅れて向かいに座っていた宇治正美が覆いかぶさった。 ...

という検索結果でした

筑摩書房といえば東京の名だたる出版社です
宇治さん自身はそこから本を出すことは無かったでしょうが
創業者であり郷土の名士と姻戚関係にあれば
他の編集者ともそういった話題が出て、それなりの目で見られていたんだろうなぁ

そんなことを思いながら元記事へのリンクをクリックしたら
ジャンプした先には想像もしなかったような話が語られていたのでした...

(次の記事につづく)