東京の街角に小諸のタバコ屋が...

 先日、このブログの読者であるビダンさんのコメントで、ワタクシが以前(1988年4月)書いた文章に触れてくださいました。ワタクシ自身も愛着のある内容で、形を変えて(さも新規に書き下ろしたという素振りで)ここに載せようかと考えていたのでした。
 でもまぁ、よく考えたらネタにしている軒先の看板が、この文章を書いて17年経った今、あまり残っていないようです。それに、携帯電話が普及して、シチュエーションそのものに無理があります。
 というわけで内情をバラした上で、当時の文章をほぼそのまま再掲します。ただし、イラストだった部分は、基にした写真を使うことにします。


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 ええっと、まず右の図版(1)を見てください。これは長野県小諸在住のマンガ家、小山田いく氏の『気まぐれ乗車券』という作品の第一話、冒頭のシーンで主人公の高校生が学校の帰り道で電話をかけているシーンです。物語の舞台は東京に設定されていますので、これは東京のどこかの街のタバコ屋の店先でしょうね。看板も出ています。
 だが、ちょっと待ってください。実はこの看板がクセものなのです。都内に住んでいらっしゃる方、ためしに表に行って近所のタバコ屋を二、三軒回ってきてみてください…おかえりなさい。どうです、下の図版(2)の左側のタイプしか見つけられなかったのではありませんか? まぁ、広告の部分は「東京新聞」だったり「Dr.フレッシュ」だったりしたかもしれませんが、とにかく小山田氏のマンガの看板は見つけられなかったはずです。
 あれれ、と思ったら目を皿のようにして小諸に向かって来てみてください。埼玉県を過ぎ、烏川を渡って群馬県に入ると、ほら、右側のタイプの看板が現れてきます。もちろん峠を越えて長野県に入っても、です。

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 下の写真を見てください。小諸市内某所の古いタバコ屋の軒先にぶら下がっている看板です。小山田氏の絵と同じでしょ。レタリングが古めかしくユーモラスでもあります。

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 ポケットベルで呼び出されて慌てて捜した身近な公衆電話という設定で、電話BOXではなくタバコ屋の店先の電話が出てくるという事からしてすでにローカルな発想という気がします。ワタクシならば周囲の騒音を遮るために電話BOXを捜します。余談になりますが、小山田氏の弟であるたがみよしひさ氏の作品『軽井沢シンドローム』で、主人公は小諸市相生町でスタンド式の公衆電話を使っています。《図版(4)》
 そして小山田氏はタバコ屋の店先という雰囲気を表すために看板を描き入れたのでしょうね。そのとき何気なく自分が普段見慣れているタバコ屋さんを思い出して描いてしまったのでしょう。が、意外や意外、東京と小諸ではタバコ屋の看板はデザインが違ったのです。
 この程度のミステイクで小山田氏の作品の価値をおとしめようとは毛頭思いません。ワタクシもこの作品はとても気に入っています。ですが、この一コマがストーリーとは無関係なところで気になって仕方がないのも事実なのです。

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図版引用
『気まぐれ乗車券』小山田いく著:小学館・1987年
『軽井沢シンドローム第4巻』たがみよしひさ著:小学館・1983年