真の主役

投稿日:



『幸福の黄色いハンカチ(1977年)』と健さんのことを書いたら
当然『遥かなる山の呼び声(1980年)』についても書かねばなりません
いや、「ねばなりません」って、自分の気が済まないだけなんですが...

で、この映画、いちおう主演男優は高倉健さんということになっております

ところが、上映されて26年経った今
ワタクシの記憶には健さんが登場したシーンが思い浮かばないのであります (^^ゞ
確かこれは吉岡秀隆クンのデビュー作でもあって
まだ子役だった彼と健さんの交流がストーリーの重要な部分でもある
と、この映画を紹介したあちこちのサイトで書かれているのですが
この記憶がぽっかり抜けているのですね

そもそも「牧場の男の子と謎めいた流れ者との交流」というシチュエーションから
この映画は西部劇の名作『シェーン』みたいだという前評判があったのですね
『遥かなる山の呼び声』という題名からして『シェーン』の主題曲の邦題ですしね

それに高倉健と倍賞千恵子という組み合わせが
『幸福の黄色いハンカチ』の二匹目のドジョウを狙ったみたいでしょ
そういう先入観もあって、ちょっと斜に構えてしまいたくなる映画だったんですよ
…それでも見に行ったワタクシは、山田監督のファンでありました

先入観といえば、山田洋次監督の名作『家族(1970年)』という映画は
長崎の炭鉱から北海道で酪農農家に転じる家族の
日本縦断の移動と当時の日本を描いた作品なのですが
その家族が目指した根釧原野の開拓村が中標津
妻を演じたのが倍賞千恵子さんで、役の名が風見民子
つまり『遥かなる山の呼び声』の設定につながってしまうんですよ
こうなるともう高倉健さんそっちのけで
「ああ、井川比佐志さん死んじゃったのか」って見てしまうんですねぇ

それやこれやで、この映画ってあんまり印象に残っていないのです


では、何を覚えているのかといいますと、ハナ肇さんなのです

ハナさんは最初、民子に横恋慕して言い寄っているのですが
それを追い払おうとする健さんと喧嘩になり
その結果、逆に打ち解けて民子と健さんを守る立場に転じるのです

いいねぇ...男が心意気に感じ、自己犠牲の愛に生きる
まさしく『男はつらいよ』の寅さんにも通じるところのある山田洋次監督の真骨頂です

この映画を『シェーン』ではなく『無法松の一生』に似ていると見る人もいるようです
それはたぶん「未亡人に惚れた男が、その息子と交流し育んでゆく」という点で
そういう共通点を見出したのかもしれませんが
ワタクシは無法松の
  無教養で粗野な男だったが
  その心は、泥の中のダイヤモンドのようにキラキラ輝いていた
というキャラクターから、これはむしろハナ肇さんこそが主役であると
そう思っているのです

この映画、ラストの列車の中のシーンは感動的です
民子とハナさんが刑務所に護送される健さんと同じ列車に乗り合わせてきて
世間話を装って「民子さんはお前を待ってるぞ、それまで俺が守ってやるから」と
聞かせて伝える場面は涙を誘うのですが
ここで「あっと驚くタメゴロー!」(古~っ。知ってる?)なのです

倍賞千恵子とハナ肇が列車に乗っているといえば
『なつかしい風来坊(1966年)』の感動的なラストシーンではありませんか

  ちょっとした誤解が元でハナ肇は暴行罪ほかで逮捕され
  被害者とされた倍賞千恵子は失踪してしまったのですね

あの映画も「このまま終わったんでは後味が悪いな」と感じていたところに
一転して涙、涙の感動的ハッピーエンドになるのですが
それがまさにこの二人が一緒にいるというその事実
もうセリフも何もいらない、この二人が赤ん坊と一緒に並んでいるだけで
「わかった、良かったな!」

そのラストシーンが見事にオーバーラップしてきたんですよ

この印象が強すぎて
ワタクシの記憶から健さんや吉岡クンが消えてしまったに違いないのです