タンポポ・ハウスのできるまで

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ワタクシが路上観察という言葉から遠ざかっていた頃
新聞の片隅で、藤森照信さんが『タンポポ・ハウス』を作った
という話を見たような記憶があり
そのときはチラッと「建築史の先生が?」と思ったのですが
そう思っただけでそれっきりでした

でまぁ今回こうやって本を読んでみたのですが
読み始めるまではまだ違和感があったのですよ
これまで読んでいた藤森さんの本といえば
明治から昭和に至るまでの近代建築の探訪記・解説だったわけですからね
そりゃまぁ中には住宅も含まれてはいましたよ
赤坂離宮みたいな大げさなものばかりではなく
宣教師たちが住み着いた瀟洒なものもね
でも、そういうものはここで使われた自然素材や
随所に埋め込まれた和風テイストとは隔たりがあるように感じるのです

そういった違和感をぬぐったのが
本書の前半で大きくページを割いた『神長官守矢資料館』でした
この、藤森さんの初作品となる茅野市にある建物を手がけた経緯を見て
創作者としての建築家・藤森照信という人を発見できたのです

それともうひとつ

知り合いで、今、ツリーハウスに夢中になっている人たちがいて
彼らの話題の中に藤森照信さんが登場し
『高過庵』とか『神長官守矢資料館』という言葉が出てきて
チンプンカンプンというか、近代建築の藤森さんと結びつかなかったのですが
この本を読んで納得しました
こうなると、次は『藤森照信建築』を読むしかありません
...が、この本は仕事場のある町の図書館で目下貸し出し中なのです


ところで、「タンポポ・ハウス」というのは
藤森さんご自身のネーミングかと思っていたら違うんですって

ご自身では最初は「グラス・ハウス」と名づけたらしい
建築界ではすでに有名な「Glass House」というガラスをテーマにした作品があるので
それの向こうを張って「Grass House」、つまり「草の家」という洒落だったそうです
それを仲間が「タンポポ・ハウス」と呼んだのが広まって定着したそうですが
かつて「看板建築」という呼び名を広めて定着させた藤森さんらしくって
それでいて藤森さん自身の仕業でないというのが、妙におかしく感じたのでした


タンポポ・ハウスのできるまで
藤森照信・著/朝日新聞社・刊(文庫版もあり)