磯崎新の「都庁」

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今日はお昼まで布団の中にいました
といっても具合が悪かったのではなく
本を読んでいたのです...朝の6時半から

実は昨夜も、食後すぐに布団に入って読み出して
これは程なく眠ってしまったのですが
読み終えるまでは他の事に手がつけられなかったのです

 85年、新宿新都庁舎コンペ(設計競技)。建築界の天皇・丹下健三に、弟子の磯崎が挑み、敗れた「幻の」都庁をめぐるノンフィクション。
 新宿の東京都庁と言えば、丹下健三設計の巨大なツインタワーを思いうかべる方も多いはず。けれどもこの本に描かれているのは、1985年の設計競技(コンペ)で、磯崎新が師匠である丹下に挑んで敗れ去った“もうひとつの都庁”――幻の建築の物語です。
 知的なイメージで知られる磯崎さんですが、実は美食家で親分肌。コンペをよそに仕事で世界中を飛び回り、留守を守るスタッフたちをやきもきさせます。けれどもそうして古今東西の名建築から受けたインスピレーションが、衝撃的な「都庁低層案」に結実したのです。 『光の教会――安藤忠雄の現場』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した著者が、建築界の知の巨人の思索の軌跡をていねいに辿った建築ノンフィクション。頭の中に幻の“都庁”が立ち上がっていくスリリングな読書体験をお楽しみください。
(Amazon の内容紹介より)

内容が建築だからというわけじゃないけど
読む前は、もっと硬い文章を想像していたのですよ
だって、上の紹介文を見るとビジネスサスペンス小説っぽいじゃないですか

それがまず手にとって和田誠さんの表紙でホッとしました

で、中の文章がこれまた読みやすい...まるで青春小説(死語ですね)
会話を効果的に使ったリズミカルで平易な文章、皮肉めいたギャクなど
「建築」というアカデミックな分野の言葉がぼんぼん出てきても
全然気にならずに読めてしまうのですね
そもそも章題の「第四章・帝国の逆襲」「第五章・磯崎新の帰還」って
スター・ウォーズじゃないですか...あっちは「5」「6」だったけど

「自らの空白、そして建築の空白。そこに対峙するしかないのである。」

なんて格調高い文章もあるけど

「さあ、スケッチに取り掛かるのだ。」
「さて、磯崎親分の決断や如何。」
「不肖の弟子なのである。」

まるで落語か講談のような語り口の
しかも短い文章で段落を締めくくって次の章へと移って行くものですから
その小気味よさに引き込まれて途中で本を置くことができず
とうとう450ページ以上の本を最後まで読みきってしまったのですね

「その後の丹下の代表作にはズバズバ軸線が通ることになる。
力道山にとっての空手チョップ、ウルトラマンにとってのスペシウム光線にあたる
丹下の必殺技なのだ。(改行筆者)」

内容の中心は題名にあるとおり
東京都庁舎の設計コンペの経緯を、主に磯崎側から見た話なんですが
磯崎新、丹下健三という二人の巨匠の軌跡を追う評伝にもなっています
これがあってこそ、コンペに賭ける意気込みや思い入れへの理解が深まるのですね
また、読んでいても面白いのです

著者の平松剛って人は藤森照信さんの本でも名前を見かけたけど
この人自身、建築士だそうです
まぁ、だからこそ専門用語などもうまく取り込めているんだけど
ほんと、面白くて読みやすい文章です

来月、ちょっと東京に行くつもりでありますので
そのときは都庁にも寄ってみようかな
本を置いて、そんなことも思ったりしたのです

あのデザインに決まるには、こんなドラマがあったんだ


『磯崎新の「都庁」―戦後日本最大のコンペ』
平松剛・著/文藝春秋・刊