過酷な仕事

 
以前は、分譲住宅の現地案内というと
俗に「捨てカン」と呼ばれる、週末限りの立て看板が周辺の電柱に縛り付けらていたものですが
最近は関係法令の規制が厳しいのか、あんまり見かけなくなり
代わりにプラカードを持った人が近くの歩道に立って、あるいは座っている姿をよく見かけます

たいていは不動産屋の新入社員かアルバイトだと思うのですが
大変な仕事だと思います
外に一日いると言うと駐車場の誘導係の人もそうで
あちらは更に身体を動かしているからもっと大変かもしれませんが
身体を使ったり頭を使ったりするのはそれなりに気分転換にもなるし
なにより「仕事をしている」というモチベーションが維持できると思うのですね
そこへゆくと、このプラカード持ちはただただじっとしていなくてはなりません

この夏、それこそ日が昇ったら日没まで「日陰」という言葉とは無縁の路上で
一日中プラカードを抱えるようにして折り畳み椅子に座っている人を近所で見たのですが
交代要員はいるのか? 休憩はできるの? トイレはどうするの?
これはもう人間の尊厳を無視した過酷な仕事だと思いましたね
けれども、酷暑の、更にそれを増幅するアスファルトの照り返しの中で
岩のようにじっとして動かないその人の姿は
世俗の苦楽を超越した哲人のようにも見えたのでした


どうしてまたこんな光景を思い出したかと言うと
今日の仕事帰りに見てしまったんですよ

台風接近中の雨の中で
雨合羽を着てプラカードを支えながらじっと立っている人を

秋の日は釣瓶落としといいますが、6時前ではもう真っ暗です
この雨の中、この夕闇の中で
誰が彼のプラカードを見て分譲住宅の見学に行くのでしょう
...それでも彼はじっと立っていました。過酷だなぁ