口風琴の調べに...

ようこそ

放蕩おやじの秋のコンサートツアー、10月はお休みしていたのですが
11月になりまして、4日に栃木県佐野市にある『風の庵』に行ってきました
出演は小室等・八木のぶお...歌以上に演奏が楽しみです


途中あちこち寄り道したのですが、それでもずいぶん早く着いてしまって
一階の土間で待っていると階上のギャラリーから八木さんの声が聞こえてきます
…お、今日は『月にうかれて』をやってくれるんだ

6時ちょっと前に客入れが始まり、去年ワタクシは一番前の板の間に座ったのですが
見上げる首が痛くなったので、今夜は客席中ほどの椅子席の最前列に座ることにします
それで判ったのですが、会場はホント、いっぱいです
よく「立錐の余地がない」と言いますが、まったくその通りですね
皆さん肩を寄せ合い、ぴったりくっついているかのように座っています

階段を次々と上がってくるお客さんや、会場のざわめきを見ながら思ったのですが
都会のコンサート会場だと、そのミュージシャンのファンという共通項はありますが
まぁたいていは知らない者同士が集まってくるわけですね
ところが、地方だと状況が違ってきます。お客同士が知り合いということが多くなる
町内や職場、趣味のサークルなど地域で何らかの仲良しや顔見知りなわけですね
たとえ誘い合わせて来なくても「やぁ、こんなところで」「きっとあの人も来るよね」
すでに客席では濃密な関係ができあがっています
ステージの演奏者にとっては、ある意味ではやり難いこともあるかもしれませんが
ひとたび客席との関係が成立すると
一人ひとりの聴衆にメッセージを届けるより、遥かに盛り上がりを見せるでしょう
…客席の中で増幅されるのですから

そんなことを、40km離れた町からやってきたワタクシはフト思ったのでした


3月の田代さんとの共演もそうでしたが
この日もジャズのスタンダードから始まりました
八木さんのハーモニカがさりげなく入ってきて、絶妙に小室さんのギターと絡んでゆき
そして間奏では見せ場、聴かせどころがたっぷりです

でね、目を開けていると八木さんばかり見ている自分に気付くんですよ
そりゃまぁリードを取るハーモニカの音色や身体を震わせる八木さんは
パフォーマンスいっぱいですからね
しかし人間の注意力というのは感覚を左右するものでして
八木さんばかり見ていると、小室さんの歌やギターが聞こえなくなるんですね
結局のところ、目を閉じて聴くのが一番いいのかなぁ
素晴らしい時間と空気が、周りを流れてゆくのが感じられます

「ハーモニカは何語で吹くんですか?」

小室さんがおかしなことを訊ねました
つまり日本語にしろ英語にしろ、歌詞のある歌は言葉で気持ちを伝えられるが
ハーモニカを吹くときは何を思っているのか? 外国の曲だったら英語なのか?
八木さんは戸惑ったように、そして苦笑しながら
「…ううむ、何も考えてないこともありますね」

これまで何度となく共演してきたお二人ですから、いまさら疑問を持ったというよりも
客席に聞かせるためのトークだったのかもしれません
でも、あとになって、これがこの晩のキーワードだったように思えてきたのです

昨年同様、さつま汁の休憩タイムを挟んでコンサートが進んでゆきます
小室さんの歌の伴奏をつけるだけではなく、八木さんのソロの曲も交え
特に前半最後の『KISALA』は素敵でした
小室さんはアルペジオのパターンを変えながら曲調の変化を際立たせます
小室さんもまた、言葉を使わずに想いを音に乗せているのでしょう

ここに着いたときに聞こえてきた『月にうかれて』は
後半の中ほどで歌われました…そう、これはちょっとだけですがボーカルがあるのです
八木さんは「シンガー・ソング・ハーモニカプレーヤーです」と照れてました
そのあと『百三歳になったアトム~鉄腕アトムのテーマ』『おしっこ』
そして『死んだ男の残したものは』と谷川俊太郎作品が1編と3曲続き
八木さんが『STAND BY ME』を歌い、演奏します
小室さんはギター、途中からコーラスで入ってきました

それまでの選曲の流れの中で下地ができていたということもありますが
これは心にググッときましたね
いろんな思いが胸に湧いてきて…と書きたいけど、具体的に何かを思ったわけじゃない
でも、心にググッとくるんです

「言葉よりも音のほうが心に届く...」
正確にそう言ったのか自信はないのですが
曲が終わると小室さんはそんな意味のことを言い、涙をぬぐっていました
「横で一緒にやっていて、実に気持ちいい。聞き惚れることもある」
いつだったか、八木さんとの共演についてそう言っていた小室さんですが
このときもハーモニカの音が、共演者としての小室さんの隙を突いて
心の中に飛び込んできたのかもしれません

最後は『翼』でした
これも小室さんのCDの中で八木さんのハーモニカが素敵な曲です

マイクスタンドに引っ掛けて吊るされたホルスターがカッコいい