紀州備長炭に生きる
あ、これは間違いなく『BE-PAL』に連載されていました
毎月楽しみに読んでいた記憶があります
それに加筆して単行本化されたものですね
備長炭と聞くと「凄い炭だ」「高級品」というイメージがありますね
じゃぁ、どこが凄いの? 何が高級なの? と問い返すと...あなた答えられますか
この本を読むと答えられるようになります
でも、この本は備長炭の薀蓄を語る本ではありません
備長炭作りにかける職人の「これほどまでやるのか」という仕事ぶりが語られています
夏の炭焼きは灼熱地獄、昔は小屋に扇風機どころか電気そのものがなかったそうですが
「今、夏のいちばんの楽しみは、帰ったらすぐ風呂入って
クーラーをがんがん効かせた畳の上で、パンツ一丁でかき氷食べることや」
ついには炭焼き小屋にまでクーラーを入れたそうです
話は飛ぶけど、落語家が長屋の八っつぁん熊さんの話をするのに
自分が都会の豪華なマンションに住んでいていいのかって疑問があって
それじゃぁおかしいと小さな家に住んでいた落語家もいたけど
自分がそう思って貧乏暮らしをするのは勝手だけど
他人が非難するのはいけないと思うんですね
話を演じる中で八っつぁん熊さんの心情に共感し
なりきってさえくれればいいと思うのです
だから、この坂本さんという炭焼き職人の
「便利を知ってしまうと、人間、元へは戻れんといううのんはほんまやな
クーラー、冷蔵庫、テレビ。これらがなかったらよう暮らさんもん
そして、その分、金はキッチリかかりよる
今は電気代払うために炭焼いとるようなもんやで、ほんまに(笑)
わしら炭焼きがそうやもん、世間が炭使わんようになるのは無理もないわ」
というのが納得できるんですよ。この人正直だな、信用できるぞ
だからこそ彼が語る炭焼きの仕事が、薀蓄や自慢や愚痴ではなく
誇りに満ち溢れた話として夢中になって読めるのですね
ところで、備長炭の特性として「なかなか火が熾きない」「火持ちがよい」
というのが有名ですが、これってつまり
一日中焼き物をしている商売屋にとっては
途中でマメに補充する必要がなくって便利ですが
1、2時間で終わってしまうレジャーのバーベキューには不向きなのは判りますね
もっとも、ホームセンターで安く売られている「備長炭」は中国産でしょうから
火持ちは紀州備長の半分、立ち消えもしやすく
「紀州備長やったら、ウナギの脂が落ちてもはじきかえすけど
中国のは脂のかかったところから、黒なって消える
そこだけ消えると、かかった脂が不完全燃焼を起こして煙が黒うなる
その煤がウナギや肉にかかってしもたら、せっかくの炭火焼きも台無しや」
...まぁ、よくできた普通の炭だと思って使えばよいのではないでしょうか
ホームセンターで売ってる「マングローブ炭」は安いけど
パチパチはぜるから、化繊衣料を着て近寄れませんからね
ちなみに、中国備長の灰は普通の炭と同様に白いそうですが
紀州備長は茶色で、量が少ないそうです
量が少ないこと自体、後始末が楽で商売屋向きですが
「ウナギを焼くと脂が落ちかかって灰がかかるが、白い灰は目だって汚いんや
紀州備長の灰はウナギの身の色に似とるさかい、焼き上がりの見た目がきれいなよ」
とことんプロ仕様です
坂本保喜・語り かくまつとむ・聞き書き/農山漁村文化協会・刊
コメント
やっとかめ
親父が生きていた頃は田舎で竹炭を作っていたんですよ。
これ僕たちは当時から「たけずみ」とよんでいたんだけど
「これは『ちくたん』と読むんだよ」なんて生意気に
(プロに向かって)”教えて”くれる人がいて(笑)
(どっちもあり。今はたけずみ読みの方が多いでしょう)。
その人がこの「中国産備長炭」をキャンプにもってきたんですね。
なかなか火がつかなくて苦労してましたが、
「このシロートが!」と思いながら、手は貸しませんでした(笑)。
まつお
▽やっとかめさん
ずいぶん前になりますが
知り合いの「キャンプの達人」がチムニースターターを持ってきたんですよ
今でこそ類似品がいっぱい出回っているけど、当時はまだ無名
みんな「そんなんで火が熾せるかよ」と思ったのですが
彼はたった一枚の新聞紙に火をつけただけ
しかもそれをほったらかしにして別の作業を始めるのですね
・・・備長炭ではなかったけど、それで火が熾きたから魂消ましたなぁ