原初の風景
昨日の仕事帰りは図書館に寄って、例の予約していた本を受け取ってきました
『南極大陸(上巻)超絶の天然』
『南極大陸(下巻)永遠の時空』
『南極撮影・12万キロ―前人未到・大陸一周に賭けた21年間の記録』
写真家・白川義員さんの作品集と、その撮影手記です
しばらく前に『文庫版メタルカラーの時代(4)』を読んでいて
その中にこの作品集をテーマにした対談記事が出ていて
もちろんこの本は98年の刊行以来、何度も読み返している本なのですが
今回初めて、無性に話題になった写真集が見たくなり
調べたら地元の図書館が所蔵していたのですね。撮影手記をまとめた本も一緒に
対談の中でも「原初の風景」という言葉を使われていましたが
人々が、これはただごとではないと信仰心すら持つような、聖なる風景
それが白川さんが言うところの「原初の風景」で
「地球再発見で人間性の回復を」という、もはや主張を超えた思想なのですね
世の中にはこんな場所があるんだ
天候と時間が織り成すこんな景色があるんだ
それを認識した時に精神革命が起きてサルがヒトになり、神が生まれる
ずっと前に読んだ立花隆さんの『宇宙からの帰還』には
宇宙から気球を見ると世界観人生観が変わってしまい
帰還後に宗教者に転じる宇宙飛行士が多いというようなことが書かれていましたが
それは、究極の原初の風景を目の当たりにし
宇宙や自然の森羅万象に感動し、畏敬の念を持ち
その秩序の中で生きているヒトという自覚を持ったということの現われ
そう思うと、白川さんの唱えていることに当てはまります
前人未到の南極一周を含む壮大・壮絶なプロジェクトには
各国の基地の支援が不可欠になります...南極には民間のガソリンスタンドが無い
「南極の基地は民間には協力しない」という申し合わせがある中で
「政府プロジェクトにも勝る意義がある」という賛同を得て
多くの基地が公式・非公式に白川さんたちを支援するのですが
日本国文部省(当時)は徹底的に支援を拒否します
昭和基地近くを飛行中の白川さんに無線で気象情報を提供することさえしません
さらには極地専門の有名なパイロットを雇っているにもかかわらず
白川さんたちを置き去りにして逃げ出してしまいます
構想21年...折衝19年、取材3年
その労苦は写真集のあとがきや、一冊に詳しくまとめられた手記で語られているのですが
不思議と撮影そのものについては、あっさりと書かれています
まぁ21年の大部分が交渉事で、取材が始まってからもトラブル対応に追われていては
そちらの記述が多くなってしまうのは仕方ありませんが
逆に、チャンスを待っているときやシャッターを押す瞬間の心理描写が少ないことで
作品としての写真が、俗世間的なことから切り離され
神々しい原初の風景として胸に迫ってくる、そんな思いがするのです
...まぁ、それにしてもこんな高価な本が読めるのも図書館のおかげです (^^ゞ