ブラックスワン/おまえが死んだあとで

 


2003年、夏。8月
新宿-行政区分は渋谷区だけど-のカタログハウスで
小室等さんと岸田今日子さんのトークショーがありました

お二人の楽しいやり取りが続くイベントの後半で
岸田さんが自作の掌編を朗読し
小室さんがそのあとで歌を歌うという企画がありました

これが内容的に似通っている、と言うのではなく
岸田さんの話に触発されたと言うか連想したと言うか
それとも単なる語呂合わせと言うか…

妙に納得するところもあったりする
不思議な組み合わせの朗読と歌になりました

例えば…おっと、お二人の作品の内容を知らなければ
または、その場にいなければ
題名を書いただけでは何が愉快かは判りませんよね、失礼

でも、
「ブラックスワン」と「おまえが死んだあとで」の組み合わせは
あまりにも印象的で、この3年間、誰かに感想を言いたくてたまらなかったので
あらすじと一緒に、少し紹介させてください


「ブラックスワン」
  かつてその町に住んでいた娼婦の忘れ形見という少女が
  「愛しい人へ、これはあなたの娘です。お願いします」
  という遺書を持って現れます
  娘は父親の名を知らされておらず
  町の男たちには、それぞれ身に覚えがないとはいえなかった
  とりあえず教会の屋根裏部屋にかくまい
  今後を相談したのだが、翌朝、少女の姿は消えていた
  少女を探して走り回る男たちに、一人の少年が
  「大きな黒い鳥が飛び立っていった」
  そう言われて見上げた空には、もう鳥の姿はなかった

という、岸田さんお得意のブラックユーモアの作品を朗読したあと
小室さんがおもむろに「お前が死んだあとで」を歌い始めたのですが
この歌は、谷川俊太郎さんがベトナム戦争の頃に作った反戦詩だと聞いています

  おまえが死んだあとで 青空はいっそう青くなり
  おまえが死んだあとで ようやくぼくはおまえを愛し始める

たしかに、このあたりのフレーズは共通する感覚かもしれないけど
まさかこんな歌われ方をするとは、谷川さんもビックリでしょう
…でも、案外、面白がるかもしれないな

そういう意味では突拍子もない組み合わせでしたが
これがピタリとハマッていたから不思議です
おまけに音響調整をしていた上田マネジャーのエコーの効かせ方が抜群で
カタログハウス本社の地下会議室の天井に大空が広がっているのが
あのとき、ワタクシの目には見えたのでした

  不思議なことに、岸田さんの朗読では「眩しく澄んだ冬空」だったのに
  ワタクシに見えた空は「夜明け前の黒い雲が広がった空」でした
  てっきりそれは照明を落とした薄暗い地下室のせいだと思っていたのですが
  最近気づいたのは、この歌が入った小室さんのレコードジャケットの背景でした

この歌は昨年発売されたアルバムにも新録音で収録され
別のライブでも聴いているのですが
あの日に聴いたのが、自分にとってこれまでの最高です


 

でね、こないだ図書館で見つけちゃったんですよ
岸田今日子さんが自作を朗読したCD

もちろん、あの日のライブ感とは別物となることでしょうが
心の中で感動を思い起こす手立てになるとは思います
ちょっと続けて再生してみましょうか