霧の中の来訪者
 ~2018北海道08

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およそ一年ぶりに訪ねたそのお店は
営業時間が過ぎ、ひっそりとしていましたが
建物の脇に住居用の玄関があるのに気づいたので
チャイムを鳴らしてみます

「埼玉のわたなべ...まつおです。また来ちゃった」

驚いた表情でドアを開けた彼女は、ツレがいるのに気づいたのか
今度はご家族で? まぁ、今開けるからお店に回ってと促し
改めて正面に向かいます

店内に招じ入れられ、アイスコーヒーを出してもらってしばし雑談
話題はどうしても前週の地震、というか停電の話になります

「冷蔵庫の食材が駄目になっちゃうから、調理してご近所の人に食べてもっらたの」
「息子がね、寸胴鍋でお湯沸かして、それでお風呂に入ったのよ」

このあと泊まった宿や、泊まり合わせた釧路の人も同じことを言ってましたね
仲間を呼んで飲み会やったとか、バーベキューやったとか
ホームセンターでは木炭と金網がよく売れたなんていう話も
  北海道の人は皆、家庭にジンギスカン用の肉を冷凍保存している
  というウワサがありますが、あながち嘘ではないようです

そして、もう一つ、皆さんが口々に言っていたことは
「あの晩は星が本当に奇麗だった!」
もちろん酪農家をはじめとして、停電が死活問題になっている人もいるのですが
事態をあるがままに受け入れ、くよくよしない逞しさに感心します
「おばあちゃんがね、私たちには開拓民のDNAがある、って言ってた」とは
例の釧路から来た女性のセリフです。なるほど

ひとしきりお喋りして、20分ほど過ごしたでしょうか
明日はお店のお客としてお昼を食べに来るからね、と席を立ったら
「あら? 外が白い...霧かしら?」
彼女の声で窓に近寄ると、なるほど遠くの林が霧に包まれています
先ほどまでの青空はどこへやら
そしてこのあと帰途の飛行機までずっと霧と曇り空が続くのですが
このときはまだそんなこととは知りません
とりあえず、だんだん濃くなる霧が湧いてくる海辺に向かって
走り出したのでした


線路を渡り、林の中を走り、高台から降りれば本日のお宿です
民宿・霧多布里...ワタクシがかつてこの辺りをウロウロしていた頃は
まだ無かった宿ですが、評判だけはずっと耳にしていて
浜中で泊まるならばここに泊まりたいと思っていたのです
  昨年ここを通った時、クルマを停めて高台の写真を撮ったのが
  後で気づいたのですが、この宿の真ん前でした

時間も早いので、温泉に行くつもりではあったのですが
いったん立ち寄ってチェックイン。部屋を決め、荷物を降ろします
もちろん温泉に向かう通り道だからでもあったのですが
理由はもう一つありました
「はい、回数券。これ使うと50円安く入れるから」(^^ゞ
宿泊費と一緒に精算です

浜中町の中心市街地は「霧多布(きりたっぷ)」といいます
まさにその名の通り霧に包まれた市街を通り抜け
背後の、岬に続く高台にある温泉施設『ゆうゆ』に行きます
30年くらい前から全国各地で文化会館の建設に始まって
日帰り温泉施設や道の駅などが次々と建ち
まぁ失礼ながら、どこも似たり寄ったりという感想を持ってしまうのですが
ここも、霧で周りが見えない露天風呂に入っていると
北海道に来ているという実感は湧いてきませんね
もちろん地元の人のための施設ですから、観光客に媚を売ることもないんですが

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とはいうものの、でもこれは観光客向けだよなぁと思えるようなものもあります
最初は「やっぱり湯上りはこれだよなぁ」と牛乳を飲んでいたのですが
  もちろん地元の小松牛乳です
ソフトクリームがあるのに気づいて注文します...昆布ソフトクリーム
作るところを見ていると
出来上がったソフトクリームの上に昆布のパウダーを振り掛け
スティックを突き刺すのですが、これが乾燥させた昆布
昔、おかき(米菓)と一緒に袋に入っていた、あの堅い奴ですね
よく見たらコーンにも昆布のかけらが練りこまれているようです
昆布づくしのソフトクリームは、観光客のウケ狙いでしょう
地元の人がここに来るたびに食べるのを楽しみにしている...ような気はしません
ちなみにツレも、普通のよくある一般的なオーソドックスなソフトを食べていました

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あと、もう一つ、観光客しか買わないだろうなというものもあったのですが
それは別の機会にご紹介します...つまり買っちゃったってことですね(笑)

そうそう、前にも書いたけど、この町は漫画家のモンキー・パンチ氏の出身地で
代表作である『ルパン三世』で町おこしをしていて
町のいたるところにキャラクターを使ったオブジェや看板があったりして
キーホルダーやステッカーなどのグッズも売られているのですね
で、もちろんここの売店にも並んでいたのです...買わなかったけど


ルパンと言えば、話は少し戻るけど、先に風呂から出たワタクシが
ロビーで牛乳を飲みながらツレを待っていたところ
正面入り口の自動ドアが開き
霧の中からグリーンのジャケットを着た男性が入ってきました

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...ルパン三世でした

ルパンはしばらくロビーやフロント周辺を歩き回り
詮索するような目つきで展示物などを見ていたのですが
やがて暖簾の向こうにある大浴場へと姿を消しました
そんなルパンを見送り、脱衣場で服を脱いでいる様子を想像できずにいると

...今度はブルーのジャケットを着たルパン三世が入ってきました

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いったい何人ルパンがいるんだ?