4つめの「わたしが一番きれいだったとき」

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この前の記事につけた『詩人、作詞家、作曲家』という題は
正直あんまり内容を表しているとは思えず、無理やりこじつけた感もありますが
題名そのものは語呂が良くって気に入ってます
…もっと相応しい内容の記事を書いたときのためにとって置けばよかったかな

で、茨木のり子さんの名前も出てきたところで
先日来書こうと思いながら延び延びになっていた話を思い出しました


一ヶ月ほど前、いつもの図書館に行ってCDの棚を眺めていたら
『うた詩集 わたしが一番きれいだったとき』というCDが目に留まりました
…なんだ、またこの話かよ。そうなんです、お付き合いください

前にも書いたように、ワタクシ、この茨木のり子さんの代表作を採り上げたものを
3種類持っています…上条恒彦さんは朗読だけど、林亭、南修治さんは曲がついてます
ここまできたら乗りかかった船じゃありませんが、これも聴いてみようじゃないか
ということでさっそく借りてきました
ちなみに、歌っているのは吉岡しげ美さんという人です

これもオリジナル曲で、バラード風、やっぱり重めの雰囲気です
まぁ詩の内容そのものが悲壮感を感じさせるところがありますので
そうなってしまうのかもしれません
上條さんや南さんもそんな雰囲気です
ただ、南さんのは言葉がズンズンと突き刺さるように聞こえるのに対し
吉岡さんのは音楽が横に広がってゆくように感じます
これは二人の歌い方の違いもそうなのでしょうが
曲そのものがそういう風に作られているからだという気もします
歌詞をつけなくても曲だけでドラマチックに聞けてしまいますね
ともあれ、改めて聞き比べると
前は「違和感を持った」と書いた林亭のバージョン
むしろ新鮮な響きを持って聞こえてきます

また、これまでずっと男性が歌ったり朗読したものを聴いていたのですが
今回は女性が歌っているというのが目新しかったですねぇ…って
もともと女性がつくった詩でしたね

それにしても、カバーとか競作とか、同じ歌を別の人が歌っているというのは
他にも何種類か持っています
ジャズやカントリーのスタンダードなどは珍しくありません
でも、同じ詩にいろんな曲がついて歌っているというのは
ワタクシのCD棚の中ではこれくらいかもしれません
元の詩が表現者の意欲を沸き立たせる魅力を持っているのでしょう

ワタクシも、もう少しこだわってみたくなってきました


ところで、この吉岡さんという人は
女流詩人の作品に曲をつけて歌うというのをライフワークにしているようで
このCD全体がそういう作品で占められているのですが
「私と小鳥と鈴と(金子みすゞ)」
「君死にたまふことなかれ(与謝野晶子)」
というものもありました…南修治さんも歌っているなぁ

「私と小鳥と鈴と」はアルバム『山はだれのもの』に入っていて
これも南さん自身が作曲した、可愛く弾むような曲です
吉岡版も可愛いけれど、やっぱりメロディアスですね
やっぱりこの人、作曲の基礎ができているって感じです

そして、「君死にたまふことなかれ」は20年位前に友人から貰った
どこかのライブ会場の模様を録音したテープに入っていたのですが
なんと、今回CDで聴いた吉岡さんが作曲したメロディだったのです
これは意外な発見でした

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  わたしが一番きれいだったとき

                        茨木のり子

     わたしが一番きれいだったとき
     街々はがらがら崩れていって
     とんでもないところから
     青空なんかが見えたりした

     わたしが一番きれいだったとき
     まわりの人達が沢山死んだ
     工場で 海で 名もない島で
     わたしはおしゃれのきっかけを落してしまった 

     わたしが一番きれいだったとき
     だれもやさしい贈物を捧げてはくれなかった
     男たちは挙手の礼しか知らなくて
     きれいな眼差だけを残し皆発っていった

     わたしが一番きれいだったとき
     わたしの頭はからっぽで
     わたしの心はかたくなで
     手足ばかりが栗色に光った

     わたしが一番きれいだったとき
     わたしの国は戦争で負けた
     そんな馬鹿なことってあるものか
     ブラウスの腕をまくり卑屈な町をのし歩いた

     わたしが一番きれいだったとき
     ラジオからはジャズが溢れた
     禁煙を破ったときのようにくらくらしながら
     わたしは異国の甘い音楽をむさぼった

     わたしが一番きれいだったとき
     わたしはとてもふしあわせ
     わたしはとてもとんちんかん
     わたしはめっぽうさびしかった

     だから決めた できれば長生きすることに
     年取ってから凄く美しい絵を描いた
     フランスのルオー爺さんのように
                   ね


聞き比べて思ったのですが
最後の「フランスのルオー爺さんのように…ね」の
雰囲気を一番よく出していたのは
上條恒彦さんの朗読でした